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岩石海岸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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岩石海岸(がんせきかいがん、rocky coast)とは、磯浜海岸とも呼ばれ、山地丘陵、大地が直接海に迫っている地形において、露出した岩石からなる海岸である。山地が海に迫っているところに発生することが多く、出入りが複雑な沈水性の海岸線に発生しやすい。さらに侵食作用が働き海食崖海食洞、波食台などがよく発達し、また海岸線が複雑なため天然の良港となり、漁業が発展していることが多い。

岩石海岸の侵食

岩石海岸の侵食は、おもに波による侵食、風化、生物学的侵食、などの作用に影響を受けることで起こる。またこれらの作用のほかにも、陸上に働くマス・ムーブメントや、河川氷河、風などの作用にも影響を受けている。

波による侵食作用

波の浸食作用は、波形勾配[1]の急な波が押し寄せるところや、海岸の形状により波が突出したの周りに集中するところ、波の作用に影響を受けやすい、もろい砕屑物のあるところに特徴的にみられる。ここでは、波の振動や、波による岩石への打撃、波と岩石の間の空気の圧縮、静水圧の変化、波による削磨などが含まれ、前の四つはおもに砕波帯や磯波帯でおこる作用である。波が岩石に当たる際、波と岩石の間にある空気に高い圧力がかかったり、高速で動く水の圧力で水が岩石の割れ目の中に押し込まれ、その割れ目に閉じ込められた空気を圧縮したりして、岩石をはぎ取ってしまう。削磨とは、波が固まっていない岩屑を動かして崖を削る作用であり、細かく砕かれた岩屑が海底の上を移動するとき、ショア・プラットフォームが削られて低くなっていく。

風化による侵食作用

海岸における風化作用には、水和作用(hydration)、塩の結晶作用(salt crystallization)、岩石の膨張(swelling)、弛み(loosening)、凍結作用(frost action)、溶解(solution)などがあり、この作用が強く働くのは高潮位付近あたりである。海水面付近の風化は、均質で細粒、水平層理[2]を持つ堆積岩に最も強く働き、そして波による侵食作用によって運ばれる岩屑ができる。海岸の凍結作用は、高緯度地方、特に崖の面に永久凍土(permafrost)や雪から淡水が供給されるような場所では、岩石破砕作用として重要であると考えられている。

生物学的侵食作用

生物による侵食作用は、軟体動物海綿、蔓脚類(barnacles)などの生物が、堆積物や岩盤をこしたり、削ったり、穴をあけたりすることによって起こるもので、その多くは熱帯の浅海で起こる。平均高潮位付近で青・緑藻類が石灰岩の溶解を促進したり、海中の生物が光合成をやめる夜間に、熱帯の浅く温かい海水が石灰岩の穏やかな溶剤となるのがその例である。


ショア・プラットホーム(Shore platforms)

海岸が波によって侵食を受け、細かく削られた岩屑が潮流によって運搬されるときに海底を削り、海底が平坦になる。この岩石海岸に発達する侵食平坦面のことをショア・プラットホームという。日本語としては海食台波食台波食棚などがあるが、ショア・プラットホームというときよりも限定された使い方になる。

ショア・プラットフォームの形成

ショア・プラットフォームの形成には、海食崖の後退が関わっている。ショア・プラットフォームの形成が著しいのは、海食崖の後退速度が大きく、沖や海岸に沿った方向への運搬作用が活発なところである。岩の性質によって侵食も選択的におこリ、また侵食の程度も違うので、海岸の地質的な要素、また海の作用などはショア・プラットフォームの形態に深く関係している。侵食されやすい岩石のあるところでは広い幅の、侵食されにくい岩石のあるところでは幅が狭く、急で高いショア・プラットフォームが形成されやすい。ショア・プラッツトフォームの幅が最大になるのは、層理が薄く、節理密度の高い、海岸線と平行に走る弱い地層からなる海岸である。通常、傾斜が大きくなるにつれショア・プラットフォームの幅は狭くなっていくが、海岸線と直交し、非常に急傾斜の地層からなる海岸の場合、幅は広くなる。規模、エネルギーともに大きい激しい波による岩石の削り取りや削磨作用などの海の作用も、幅の広いショア・プラットホームを形成するのに影響していると考えられるが、その幅は単純に波のエネルギーだけで決まるものではない。

ショア・プラットフォームの形態

ショア・プラットフォームの形態は次の三つに分けられる。

傾斜平面(inclined plane)
この形態は北半球の西海岸で、波のエネルギーが大きいところに目立ってみられる。たとえばイギリスの南部海岸の35%程度の海岸でこのようなショア・プラットフォームがみられ、特にコーンウォール(Cornwall)地方などの南西部では発達している。
段状プラットフォーム(stepped platform)
この形態は熱帯地方の海面付近での風化作用や生物の働き、わずかな潮差などによって形成されることが多く、熱帯地方にみられる。他に、ニュージーランド北東、オーストラリア南東部、カナダのケベック州に属するガスペ半島などにもみられる。
ストームベンチ(storm wave platforms)
この形態は熱帯地方ではよく見られ、その形成過程には、普段は穏やかな波が打ち寄せる海岸に、まれにおこる暴浪が関係していると考えられる。

岩石海岸でみられる微地形

岩石海岸では、タフォニ、甌穴(おうけつ)、キノコ岩、鬼の洗濯岩などの微細な起伏をもつ地形がみられる。

タフォニ(tafoni)

風化作用で岩石内部の物質が除去されることによって、岩石の表面に空いた円形や楕円形の穴のこと。花崗岩類のような結晶質岩によく発達する地形ではあるが、砂岩や石灰岩、凝灰岩でも見られる。穴の直径は数十センチから数メートルで、おもに地中海性気候帯や熱帯、亜熱帯の乾燥地域、湿潤気候の海岸での発達がみうけられる。この地形の成因としては、塩の結晶作用に基づいた塩類風化があげられる。

甌穴(ポットホール、かめ穴)

河床や河岸の固い岩石の表面にできる円筒形の深い穴のこと。岩石の表面にできた穴の中に礫が入り、流水の力でその礫が回転し、岩石を削ることで深いくぼみができていく。おもに砂岩や頁岩などの堆積岩、花崗岩などに見られる微地形である。穴の直径は数センチから数メートルで、深さはさまざまである。

キノコ岩

乾燥地帯で見られる岩石で、岩石の上方がキノコ状に大きくなっているもの。乾燥地帯では植物があまり育たないため風の働きが強くなり、その風が砂を巻き上げる。しかし風は地表数十センチ程度しか砂を持ちあげないので、砂は岩石の基部のみを浸食することになり、岩石はキノコ状になる。


主な岩石海岸

関連項目

脚注

  1. ^ 波高(波の頂上から波の谷までの高さ)に対する波長(波の頂上、または谷から、次の波の頂上、または谷までの長さ)の比で、波の険しさを表す。
  2. ^ 堆積物中に見られる岩石の層状の配列(層理)が水平なこと。

参考文献

  • Richard J.CHORLEY  Stanley A.SCHUMM  David E. SUGDEN  大内俊二訳 『現代地形学』 古今書院 1995年
  • Willard Bascom 吉田耕造・内尾高保訳 『海洋の科学』 株式会社河出書房新社 1977年