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トヨタ・GRヤリス

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トヨタ・ヤリス > トヨタ・GRヤリス

GRヤリス(ジーアールヤリス、英語: GR YARIS)』は、トヨタ自動車が生産しているハッチバッククーペ型のスポーツ車である。

概要

トヨタ・GRヤリス
GXPA16/MXPA12型
RZ"High-performance"
概要
製造国 日本の旗 日本愛知県
販売期間 2020年9月4日 –
設計統括 齋藤尚彦
ボディ
乗車定員 4人
ボディタイプ 3ドアハッチバッククーペ
エンジン位置 フロント
駆動方式
プラットフォーム
  • 前:GA-B
  • 後:GA-C
パワートレイン
エンジン
M15A-FKS
1,490 cc 直列3気筒(RS専用)
G16E-GTS
1,618 cc 直列3気筒 インタークーラーターボ(RZ/RC専用)
最高出力
M15A-FKS
88 kW (120 PS)
G16E-GTS
200 kW (272 PS)
最大トルク
M15A-FKS
145 N・m (14.8 kgf・m)
G16E-GTS
370 N・m (37.7 kgf・m)
変速機
車両寸法
ホイールベース 2,560 mm
全長 3,995 mm
全幅 1,805 mm
全高 1,455 mm
車両重量 1,130 - 1,280 kg
最大積載量 141 L (VDA法、4名乗車時)
その他
タイヤサイズ 225/40ZR18
ブレーキ ベンチレーテッドディスク
系譜
先代
RS
トヨタ・ヴィッツ GR SPORT "GR"
RZ/RC
いずれも事実上[独自研究?]
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トヨタ自動車のスポーツ車専門ブランドGR』を展開する「GAZOO Racing カンパニー」が開発した車種で、本ブランドの専売車種としては2019年に発売された「GRスープラ」に続く2台目の車種である。

前述の「GRスープラ」と2012年に発売された「86」は同業他社との共同開発によって誕生した車種であったが、本車種は2007年に生産を終了したミッドシップスポーツカー「MR-S」以来13年ぶりに同社が独自に開発したものとなり、また4WDの市販スポーツ車としては1999年に生産を終了した「ST205型セリカ“GT-FOUR”」以来となり、さらに1500 - 1600 ccクラスのクーペ型3ドアハッチバックとしては『カローラレビン』/『スプリンタートレノ』のAE85/86型以来、33年ぶりの投入となった。

2020年に発売されたコンパクトカーの4代目「ヤリス」と車名は同じだが(一部のメカニズムを除いては)別の車種として設計されている[1]

経緯

1999年のシーズンを最後に「FIA世界ラリー選手権 (WRC)」を撤退したトヨタは2017年から同選手権へと再び参戦している。その際に用いられた参戦車両が3代目「ヤリス(日本名:ヴィッツ)」だったが、当車種の開発段階では競技車両への転換を想定していない設計だったこともあり、競合相手の参戦車両に比べて不利となる部分(全長を伸ばしにくいサスペンションの構造や高めの全高など)が多く、さらなる戦闘力の向上を図るには本競技での使用を前提とした専用車種の開発が必須となった。

そこでホモロゲーションモデルとして本車種の開発がスタートし、グループAの公認取得条件となる25,000台の生産を目標に掲げた[2]。現在のWRC[注釈 1]は当然ながら、ローカルラリー等でも勝てることを目指した。

生産と開発

2009年に発売されたスーパーカーレクサス・LFA」専用の生産設備であった「LFA工房」を基礎として、本車種の生産から稼働する『GRファクトリー』と呼ばれるスポーツカーなどの少量生産に対応したベルトコンベアを用いないセル生産方式の生産設備を愛知県の元町工場に導入した[3]

開発はドライバーから現場で開発ドライバーのフィードバックを受けてその場で改善し、すぐにコース上に送り返すというモータースポーツのテストと同じやり方が採用されている。開発ドライバーは石浦宏明大嶋和也がメインで、WRCドライバーのオイット・タナクヤリ=マティ・ラトバラクリス・ミークらもテストを行った。トヨタには成瀬弘を祖とする市販車のテストドライバーたちが多数いるが、レーシングドライバーがメインの開発ドライバーとなるのは同社では珍しい事例である。

年表

メカニズム

車両の基礎となる車台(シャシー)はすべて「GAプラットフォーム」で統一されているが、モータースポーツでの過酷な使用状況における走行性能を考慮した結果(GAプラットフォームとしては初となる)車両の前半部分と後半部分で車両クラスの違うもの組み合わせるハイブリッド構造を用いて設計されている。前半部分には「ヤリス」等のコンパクトカーが採用する「GA-Bプラットフォーム」を、後半部分にはカローラ等のミドルサイズ車に採用されているGA-Cプラットフォームを用いることで軽量かつ強靱なシャシーを実現した。 なお2つの異なるシャシーを用いていることから単独のプラットフォームで構成される4代目「ヤリス(GA-Bプラットフォーム)」と同一ファミリーであるとはみなされず、グループAの公認取得には「GRヤリス」のみで25,000台[要出典]の生産を必要とされる[注釈 2]

エンジンは新規開発となる『ダイナミックフォースエンジン・スポーツエンジン』の第1弾となった、排気量1.6 Lのターボエンジン『G16E-GTS』型を搭載する。「ヤリス」に搭載された1.5 Lの水冷直列3気筒DOHCエンジンの「M15A-FKS」/「M15A-FXE」型と同じく直列3気筒エンジンとなるが、「G16E」型はモータースポーツでの使用を念頭に置いた専用設計のエンジンとなる。

シリンダーの内径(ボア)が87.5 mm、そして行程(ストローク)が89.7 mmとなり、排気量が1,600 ccを僅かに上回る1,618 ccとなったのは、ラリーでの常用域において最大の性能を発揮できるように設計されたからである。圧縮比は10.5で、直噴とポート噴射の併用技術「D-4S」を採用する。最大出力272馬力/37.7 kgm(340 N/m)を発生し、0 - 100 km/h加速は5.5秒以下、最高時速は230 km/hを実現する[8]。なお同エンジンは、ダイナミックフォースエンジンの特徴であるレーザークラッドバルブシートではなく、バルブシートを工夫して打ち込んでいる。これはメンテナンスやチューニングのしやすさも考慮しているためである。インタークーラーはラリーでのメンテナンス性を考慮して空冷式を採用している。なお『RZ“High-performance』には冷却スプレー機能が追加装着される。このほか、A25A-FKS型エンジンやM20A-FKS型エンジン、M15A-FKS型エンジンと同様にアイドリング時の振動対策として1次バランサーシャフトクランクシャフトの直下に組み込まれている。

トランスミッションは既存の12代目カローラシリーズ無印セダン/ツーリング/スポーツ[注釈 3]、およびC-HRなどで先行採用された、自動ブリッピング機能を持つ『iMT』(インテリジェントマニュアルトランスミッション)を装備。パーキングブレーキは基本的にスピンターンを実現するため電動ではなく手引式となっている。

センターデフには電子制御式カップリングの、新開発のスポーツ四輪駆動システムを採用。この技術は往年の『GT-FOUR』に対するヘリテイジの意味も込めて『GR-FOUR』を名乗る。トルク配分を通常の60:40、スポーツモードで30:70、トラックモードで50:50の三段階で選ぶことが可能である[注釈 4][9]。一方で前後には、改造を前提にオープンデフを採用している[10]

このほか『RZ“High performance”』グレードには、トヨタ系の自動車部品会社であるジェイテクトの開発したトルセンLSDが装着される。

シャシーは3ドアで、屋根をカーボン製にするなど軽量化・低重心化・剛性の強化が図られている。これによりパワーウェイトレシオは4.71 kg/psに達する。またWRカーにする上で重要な空力特性も考慮され、リアのルーフ位置を下げてリアスポイラーに風を当てやすくなっている他、リアのフェンダーは大きく盛り上がっている。

また安全運転支援システムの「Toyota Safety Sense」は、本車両のみRCグレードを除く全グレードでメーカーオプション設定となっている。

グレード構成

RZ

1.6 Lのターボエンジン「G16E-GTS」型と6速マニュアル、四輪駆動システム「GR-FOUR」を搭載した最上級グレードとなる。そしてハイエンドモデルの『RZ“High performance”』では、BBS製の専用鍛造アルミホイールとミシュラン製の高性能タイヤ「Pilot Sport 4S」が装備され、トルセンLSDとブレーキの冷却用ダクト、さらにインタークーラーの冷却システムも搭載される。さらに内装ではフロントシートに専用設計のプレミアムスポーツシートが装備され、サーキットでの走行を考慮したモデルとなっている。また、スポーツモデルでありながらアイドリングストップ機構も標準で装備される。

RC

ディスプレイオーディオなど快適装備を撤去して軽量化した競技車両製作用のグレードで、エンジンや駆動システムなど基本的なメカニズム部分は「RZ」と共通であるが、フロントブレーキはラリー用のタイヤとホイールが装着できるよう「RZ」のディスクローターを1インチ小径化し、さらにワンピース構造とした「RC」専用品が装備される(前後のキャリパー自体は「RZ」と共通である)。それに加えてタイヤとホイールは「RZ」の18インチから17インチへと変更されている。なお、ホイールはスチール製ではなく「RC」専用デザインのアルミホイールとなっている。エアコンはオプションで選択可能。

RS

外装は「RZ」と共通ながら[注釈 5]パワートレーンを「ヤリス(5ドアハッチバック)」と同じ1.5 Lの自然吸気エンジン『M15A-FKS』型へ換装し、さらに前輪駆動へと変更したモデルである。これによって車重が「RZ」の1,280Kgから1,130Kgと大幅な軽量化を実現している。トランスミッションは、発進用ギアを兼ね備える『ダイレクトシフトCVT』に加え、「ヴィッツ GR」で実用化した「シーケンシャル10段変速MTモード」を搭載する[注釈 6]。パーキングブレーキはRZ/RCグレードと異なり、「ヤリスクロス」と同じく電動式を採用している。

モータースポーツ

2020年1月の東京オートサロンにてTOYOTA GAZOO Racingの姉妹チームとなるROOKIE Racingから、スーパー耐久のST-2クラスへ参戦が発表。規則の関係上で、ラリーより先にサーキットでデビューすることとなった。初走行となった2月29日のテストでは、ほぼノーマルの状態でありながら、40馬力上回りかつ熟成も進んでいた三菱・ランサーエボリューションXとほぼ同等のタイムを記録した[11]。開幕戦富士24時間レースではモリゾウ(豊田章男トヨタ自動車社長)・井口卓人のタイムアタックで予選1位を獲得し、夜に大雨に見舞われた決勝でも終始レースをリード。同じくデビュー戦であったトヨタ車のGRスープラクラウンRSと共にクラス優勝でデビュー戦を飾っている。この時モリゾウ直々に、新車としての問題点を洗い出すために「壊せ」という指示が出ており、終始ハイペースでの周回であったが、全くのノートラブルであった[12]。第2戦のスポーツランドSUGOでは3位、第3戦の岡山国際サーキットでは2位、第4戦のツインリンクもてぎと第4戦のオートポリスでは優勝し、2020年のST-2クラスのチャンピオンを獲得した。

2020年2月にはユホ・ハンニネンがテストドライブするWRカー仕様の走行映像も公開され翌年の参戦に備えていたが、新型コロナウイルス流行の影響による開発の遅れもあり、同年6月15日に投入の見送りが発表された[13][注釈 7]

2020年11月開催の全日本ラリー選手権第4戦 ツール・ド・九州でクスコレーシングとオサムファクトリーがGRヤリスを投入。結果はそれぞれクラス5位とクラス8位となった。

車名の由来

「GR」は、トヨタのスポーツカーブランド「GR」に由来する[14]

「Yaris」は、ギリシャ神話女神カリス(Charites)」の単数形「Charis」からの造語である[15]

脚注

  1. ^ トヨタGRヤリスの396万円はバーゲンプライスだ!「GRヤリス」と「ヤリス」はまったく別のクルマだ”. モーターファン (2020年1月24日). 2020年3月10日閲覧。
  2. ^ GRヤリスがクルマ好きを魅了する理由とは? 発表2週間で約2000台の受注!? ベストカーweb 2020年2月13日
  3. ^ スポーツカー「GRヤリス」で挑むトヨタ生産方式の進化「GRファクトリー」、「作り手の意思がこもった多品種少量生産」と友山茂樹 プレジデントCar Watch 2020年1月14日
  4. ^ "TOYOTA、新型車GRヤリスを初公開" (Press release). トヨタ自動車株式会社. 10 January 2020. 2020年3月11日閲覧
  5. ^ "TOYOTA、新型車GRヤリスのラインアップを発表" (Press release). トヨタ自動車株式会社. 2 June 2020. 2020年6月2日閲覧
  6. ^ トヨタ、新型車「GRヤリス」の発売が9月4日に決定”. Yahoo!ニュース (2020年8月21日). 2020年8月22日閲覧。
  7. ^ "新型車GRヤリスを発売" (Press release). トヨタ自動車株式会社. 4 September 2020.
  8. ^ “トヨタ GR ヤリス、欧州仕様を発表へ…ジュネーブモーターショー2020[中止]”. Response.jp. (2020年2月28日). https://response.jp/article/2020/02/28/332132.html 
  9. ^ “GRヤリス最終仕様(?)に見たトヨタの“ラリー王国復活への覚悟””. as-web. (2020年1月16日). https://www.as-web.jp/rally/558262/2 
  10. ^ “トヨタ、「GR ヤリス プロトタイプ」。市販予定、WRCに直結した3気筒 1.6リッターターボのスーパー4WDマシン”. Car watch. (2019年12月20日). https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1225795.html 
  11. ^ “GRヤリスが速い! 走り出しから1分54秒688を記録【スーパー耐久2020・S耐公式テスト富士】”. cliccar. (2020年3月1日). https://clicccar.com/2020/03/01/958009/ 
  12. ^ 富士24時間:GRヤリスがデビューウイン!「すべてのスタッフに感謝」モリゾウも喜び”. autosport web (2020年9月6日). 2020年9月12日閲覧。
  13. ^ WRC:トヨタ、2021年の新型ラリーカー投入を見送り。チームはテストで活動再開”. autosport web (2020年6月15日). 2020年6月16日閲覧。
  14. ^ GRヤリスの車名の由来は何ですか?”. トヨタ自動車株式会社. 2021年1月12日閲覧。
  15. ^ Toyota Traditions”. Toyota Global Site. 2015年6月9日閲覧。

注釈

  1. ^ 現行のWRカーは市販車の実態とはかけ離れた規定となってはいるものの、依然として参戦車両の基礎となる骨格は重さ・重心・空力などに大きな影響を及ぼす。
  2. ^ グループAの公認条件は「直接的なモデルは2,500台、車種全体で25,000台を12ヶ月間に生産」であるため、もし同一ファミリーとして認められていれば2,500台の生産で済んだ。
  3. ^ 無印セダンとツーリングはいずれもガソリンエンジン搭載モデルの最上級グレード(「W×B」)のみ設定。また、スポーツはガソリンエンジン搭載モデルの全グレードに設定される。
  4. ^ WRCドライバーに4日間スノー・グラベルでテストドライブさせた結果、スポーツモードの30:70は車を縦に使うオイット・タナクが、トラックモードの50:50は車を横に使うヤリ=マティ・ラトバラがそれぞれ好みだとコメントしている。またタナックは、他のドライバーとは違いスポーツモードで最速であったという。
  5. ^ 「RS」ではリアゲート部分に「GR-FOUR」エンブレムが装着されないので、これが外観上における唯一の識別ポイントとなる。また、この「RS」のみストラットタワーバー取り付け用のアンカーボルトが削除されている。
  6. ^ 本機能はパワートレーンを流用する「ヤリス(5ドアハッチバック)」のCVT搭載車には採用されておらず、GRヤリス「RS」専用の変速システムとなる。
  7. ^ そもそもグループAのホモロゲ―ションを取得する為に開発された車だが、連続12ヵ月以内で25000台以上という規定台数を達成していないことから2020年12月時点では取得ができない。

関連項目

リンク