ゲバ字
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ゲバ字(ゲバじ)とは、日本の新左翼が好んで用いていた書体。「トロ字」(「トロツキストの字」の意)とも。
概要
1960年代の学生紛争当時、大量のビラを作成するのに謄写版が使われていた。そのため、筆跡で身元が割れてしまう可能性があり、公安警察や敵対党派の追及をかわすために開発されたものといわれている。また、謄写版では細かい字が出にくいため「闘」を「斗」、「職」を「耳ム」と簡略化したり、潰れにくいように枡目を一杯に使って書かれている。ビラの他に立て看板や党派のロゴとしても使われた。
それとは別に、戦前の無産政党や共産党が使っていた書体からきているという説もある。
1960年代の学生運動でよく使われたが、学生が社会人になる1970年代以降はあまり使われなくなった。2000年代以降も使われており、パソコンなどで利用できるゲバ文字フォントも存在するが、書いた内容に関係なく「運動」っぽさが出てしまうので利用できる場面は限られる。
「闘」を「斗」と略すなど、ゲバ字で使われた略字は当時「全学連漢字」とも呼ばれた[1]。本来日本語として誤りであるが、社会人になってもゲバ字に特徴的な略字を使う人がおり、一部から批判されつつも日本語として定着している[2]。
特徴
- この字体は、謄写版原紙に鉄筆で文字通り「字を刻む」ことに由来する。典型的なゲバ字では、ハライなどの曲線、短い線や点やハネ、鋭角など、鉄筆では刻みづらい部分や謄写版でつぶれやすい部分がなるべく無いように工夫されており、角ばった印象を与える。また、鉄筆では字の角の部分の線の合わせ目をぴったり合わせるのが難しいため、片方の線が突き抜けるなど、字の角が必要以上に強調される。ただしコピー機の普及以降は普通のゴシック体に近いものも存在している(「角丸ゴシック」をもじって「革マルゴシック」とも)。太マジックで書いてコピー機にかけた時につぶれにくいような横線を強調したゲバ字も存在している。
- 「去」の「ム」部を大きくして角度をなるべく大きく取る、「会」の「𠆢」部を3画にして鈍角にする、「万才」のハネを大きくとる
- 「自」の縦線が突き抜ける
- 「働→仂」など略字を好んで用いていた。元々は謄写版で印刷時につぶれないように書かざるを得なかったことに由来するが、手書きの立て看板などでもあえて謄写版のような力強く角ばった書体で書き、その上で特徴的な略字が使われることが多い。字がつぶれる心配のない細字の時ですら特徴的な略字が使われるので細ゴシック体などではなくゲバ字だと判別できる。
- 「闘争→斗争」「万歳→万才」
- 党派によって書体が微妙に異なる。使われている略字も微妙に異なる。
- 「職→耳云、耳ム」
- 「闘→斗、(門の中に斗)、(门の中に斗)」
- つくりの部分や冠部の下部などにカタカナやアルファベットを用いる。もしくは書かずに省略する。
- 「議論→言ギ言R」」「慶應→(广の下にK)(广の下にO)」「個→イロ」
- 毛沢東主義の影響からか、中国の簡体字そのままの字も多い。ただし「衛」は簡体字の「卫」ではなく「彳ヱ」または「彳エ」であるなど、画数が多くなっても日本語として文脈から読みやすいように配慮されている。
- 「戦→战」「権→权」
- 以上の結果として、党派ごとの略字や簡体字などが入り混じった独特のフォントになる。
- 「個別的自衛権→イロ別的自彳エ权」
関連項目
参照
- ^ 週刊ポスト1971年5月21日号の特集
- ^ 「斗志」のという字の意味。また、「闘」を「斗」と表記する場合があるのはなぜか? 国立国会図書館によるレファレンス