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ロシアのウクライナ侵攻がアジアに与える教訓

米村耕一・中国総局長
北京のカナダ大使館の外壁に掲げられたウクライナ支持の看板=2022年3月3日、米村耕一撮影
北京のカナダ大使館の外壁に掲げられたウクライナ支持の看板=2022年3月3日、米村耕一撮影

 ロシアによるウクライナ侵攻は、私たちの世界に対する認識を大きく変えつつある。それは中国においても同じだ。

 「中国には二つの選択肢がある。今後も、これまで通り、あるいはそれ以上にロシアとの関係を一層深めていくのか。あるいは、これを機会に西側(特に米国)との関係を改善するのか」。3月3日、そうツイートしたのは核不拡散・軍縮政策の専門家で、カーネギー清華グローバル政策センター(北京)のシニアフェロー、趙通氏だ。

あいまいな中国

 中国は、ロシアのウクライナ侵攻について、あいまいな態度をとり続けている。王毅国務委員兼外相は7日の記者会見で、ウクライナの主権の尊重や人道危機に対する同情と支援を表明する一方で、「中露は互いに最も重要で緊密な隣国であり、戦略的パートナーだ」とも改めて強調した。

 「侵略」や「侵攻」といった言葉も慎重に避け、「当事者の正当な安全保障に関する懸念に配慮すべきだ」と、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を問題視するロシアの主張を支持する立場も示している。

似通う中国と北朝鮮の立場

 国連総会の緊急特別会合が2日に採択したロシア非難決議で中国は棄権し、北朝鮮は反対した。しかし、実は中国と北朝鮮のそれぞれの外務省の公式的な立場は、かなり似通っている。

 北朝鮮外務省が2月28日に発表した報道官談話は、ウクライナで起きている事態の原因は「ロシアの合理的で正当な要求を無視したままNATOの東方拡大を推進した欧州における安全保障環境の体系的な破壊」だと主張。ロシアによるウクライナの主権や領土の侵害については、「イラクやアフガニスタンを廃虚にした米国や西側が『主権尊重』をうんぬんするのは理屈に合わない」と批判の矛先を米欧に向けた。

 つまり、ロシアの行動を全面的に是とはしないが、今回の事態を引き起こした責任は、ロシアの「正当な安全保障上の懸念」を重視しなかった西欧や米国にもあるという点において、中国と北朝鮮の立場は一致している。

 もちろん、核とミサイル開発に対して厳しい経済制裁が科され、国際社会で完全に孤立している北朝鮮と、世界第2位の経済大国である中国とを完全に同列に位置づけるのは無理があるだろう。ただ、中国では最近、核問題や制裁をめぐり北朝鮮に対する理解と同情を示す声が高まりつつあり、両国は接近する傾向にある。

米中対立はどうなっていくのか

 ロシアのウクライナ侵攻以前は、米中対立が国際政治の最大の焦点だった。今は中国からロシアへと関心が移っている。しかし、米国や欧州、日本などがロシアへの非難を強める中で、中国がロシアとの関係をさらに強めるのであれば、ウクライナにおける事態が沈静化した後、日米欧と中国との亀裂はさらに大きくなっている可能性が高い。やや極端な表現かもしれないが、日本が東アジアにおいて中露朝の3カ国による「専制の枢軸」と対峙(たいじ)するような事態も、全くありえないわけではないのだ。

 中国とロシアの関係、そして中国と米国との対立はどうなっていくのか。米中両国の安全保障専門家間の交流事業にも関わる趙通氏に、ツイートの真意と合わせて北京市内でインタビューした。示唆に富む内容が多かったが、以下はその概要だ。

中国の安全保障専門家はこう見る

 ツイートではモデルをやや単純化した。実際にはここまで単純な話ではないかもしれない。中国は当面はロシアとの関係を維持しつつ、欧米との関係も安定させようとするだろう。

 しかし、ロシア・ウクライナ戦争によって、中長期的には欧米の中国に対する認識はより厳しいものになる。欧米から見れば、ロシアと中国には共通点が少なくないからだ。…

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中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。