「分隊支援火器」の版間の差分
編集の要約なし |
編集の要約なし |
||
2行目: | 2行目: | ||
{{Multiple image |
{{Multiple image |
||
|direction=vertical |
|direction=vertical |
||
|width= |
|width=300 |
||
|image1=Integrated Task Force Marines drive home M27 IAR 101 141203-M-DU612-015.jpg |
|image1=Integrated Task Force Marines drive home M27 IAR 101 141203-M-DU612-015.jpg |
||
|caption1=[[M27 IAR]](発展型の軽機関銃) |
|caption1=[[M27 IAR]](発展型の軽機関銃) |
||
12行目: | 12行目: | ||
|caption4=[[H&K G36|H&K MG36]] |
|caption4=[[H&K G36|H&K MG36]] |
||
}} |
}} |
||
'''分隊支援火器'''({{lang-en-short|Squad Automatic Weapon, SAW}})もしくは'''軽支援火器'''({{Lang-en-short|Light Support Weapon, LSW}})は、[[分隊]]を[[火力支援]]するために容易に携行することが可能な[[機関銃]]である。 |
'''分隊支援火器'''({{lang-en-short|Squad Automatic Weapon, SAW}})もしくは'''軽支援火器'''({{Lang-en-short|Light Support Weapon, LSW}})は、[[分隊]]を[[火力支援]]するために容易に携行することが可能な[[機関銃]]である。 |
||
25行目: | 24行目: | ||
いくつかの分隊支援火器、たとえば[[ロシア]]([[ソビエト連邦|ソ連]])の[[RPK軽機関銃#RPK-74|RPK-74]]や[[イギリス]]の[[L85#SA80シリーズ|L86]]は、[[アサルトライフル]]を連続射撃が行えるように大きくしたものである。また、アサルトライフルと構造が似ているため、操作・整備技術の習得を早める効果があるとされる。おおむね、分隊支援火器は、次の2通りの基本パターンに分類できる。 |
いくつかの分隊支援火器、たとえば[[ロシア]]([[ソビエト連邦|ソ連]])の[[RPK軽機関銃#RPK-74|RPK-74]]や[[イギリス]]の[[L85#SA80シリーズ|L86]]は、[[アサルトライフル]]を連続射撃が行えるように大きくしたものである。また、アサルトライフルと構造が似ているため、操作・整備技術の習得を早める効果があるとされる。おおむね、分隊支援火器は、次の2通りの基本パターンに分類できる。 |
||
; アサルトライフルからの発展型 |
|||
: アサルトライフルを[[銃砲身|長銃身]]化、二脚を追加するなどしたもの。[[ストーナー63]]、[[H&K XM8|XM8]]、[[M27 IAR]]、H&K MG36([[H&K G36]])など。 |
|||
; 専用設計型 |
|||
: 最初から個人携行用の分隊支援火器(軽機関銃)として設計されているもの。[[ミニミ軽機関銃]]、[[ブローニングM1918自動小銃|ブローニング自動小銃BAR]]、[[IMI ネゲヴ]]など。 |
|||
== 運用思想 == |
== 運用思想 == |
||
;初期の分隊支援火器 |
; 初期の分隊支援火器 |
||
:分隊支援火器という言葉は[[第一次世界大戦]]-[[第二次世界大戦]]後しばらくまで、[[アメリカ軍]]で使用された[[ブローニングM1918自動小銃|BAR]]を指す言葉だった。この頃の[[軽機関銃]]はセミ/フル切り替えが可能で数十発程度の着脱式弾倉を備えており、[[小銃]]と軽機関銃の中間的な能力を持ち[[分隊]][[火力 (軍事)|火力]]の中核だった。 |
: 分隊支援火器という言葉は[[第一次世界大戦]]-[[第二次世界大戦]]後しばらくまで、[[アメリカ軍]]で使用された[[ブローニングM1918自動小銃|BAR]]を指す言葉だった。この頃の[[軽機関銃]]はセミ/フル切り替えが可能で数十発程度の着脱式弾倉を備えており、[[小銃]]と軽機関銃の中間的な能力を持ち[[分隊]][[火力 (軍事)|火力]]の中核だった。 |
||
;[[アサルトライフル]] |
; [[アサルトライフル]] |
||
:アサルトライフル時代の分隊支援火器を理解するには、アサルトライフルの運用思想を理解する必要がある。 |
: アサルトライフル時代の分隊支援火器を理解するには、アサルトライフルの運用思想を理解する必要がある。 |
||
:アサルトライフルは、通常はフルオート(連続)射撃が可能であるが、特に新兵など興奮しすぎた[[兵士]]は、戦闘においてあっという間に[[弾薬]]を使い果たしてしまう。また、フルオート射撃時にはアサルトライフルの小型軽量さが災いして反動が激しくなり、銃口が跳ね上がるので当然命中精度は低くなる。従って、多くの軍隊では一般兵士に対して、大規模な突撃または待ち伏せ攻撃以外の時には、フルオートを使用しないように教育している{{efn|フルオート射撃の抑制で云えば、[[アメリカ陸軍]]の一般兵士用のアサルトライフル・[[M16自動小銃]]のA2・A4型は、フルオート機能を敢えて廃止してセミオート(単射)機能と3点バースト射撃(引き金を引くと3発だけ連射される)機能だけに限定したほどである}}。このような弾薬消費を抑える努力や工夫によって、[[兵站]]への負担軽減と弾薬を携行する前線兵士の疲労も同様に軽減できる。 |
: アサルトライフルは、通常はフルオート(連続)射撃が可能であるが、特に新兵など興奮しすぎた[[兵士]]は、戦闘においてあっという間に[[弾薬]]を使い果たしてしまう。また、フルオート射撃時にはアサルトライフルの小型軽量さが災いして反動が激しくなり、銃口が跳ね上がるので当然命中精度は低くなる。従って、多くの軍隊では一般兵士に対して、大規模な突撃または待ち伏せ攻撃以外の時には、フルオートを使用しないように教育している{{efn|フルオート射撃の抑制で云えば、[[アメリカ陸軍]]の一般兵士用のアサルトライフル・[[M16自動小銃]]のA2・A4型は、フルオート機能を敢えて廃止してセミオート(単射)機能と3点バースト射撃(引き金を引くと3発だけ連射される)機能だけに限定したほどである}}。このような弾薬消費を抑える努力や工夫によって、[[兵站]]への負担軽減と弾薬を携行する前線兵士の疲労も同様に軽減できる。 |
||
;分隊支援火器、軽支援火器 |
; 分隊支援火器、軽支援火器 |
||
:しかし、この運用思想では、味方の突撃時に[[弾幕]]による[[制圧射撃]]が弱いか、または無いという問題が生じた。分隊支援火器は、この問題を解決するために、[[機関銃]]を突撃時にも携行できるようにする、という発想から生まれた。この[[武器]]の登場と、それを扱う専門の援護射撃兵の教育により、個々の兵士は弾薬を節約することができ、訓練時間を短くすることができ、かつ分隊が持つ弾薬の重量を軽減することができた{{efn|[[民兵]]や非正規軍においても、この運用思想は利点をもつ。私費で購入する弾薬代を節約できる上に、訓練の時間も短くすることができ、正規軍と同じような行動を非軍事用の銃で行うことができる。戦時には軽装備の民兵でも、1個分隊に1丁の分隊支援火器を支給して火力を増強できる}}。 |
: しかし、この運用思想では、味方の突撃時に[[弾幕]]による[[制圧射撃]]が弱いか、または無いという問題が生じた。分隊支援火器は、この問題を解決するために、[[機関銃]]を突撃時にも携行できるようにする、という発想から生まれた。この[[武器]]の登場と、それを扱う専門の援護射撃兵の教育により、個々の兵士は弾薬を節約することができ、訓練時間を短くすることができ、かつ分隊が持つ弾薬の重量を軽減することができた{{efn|[[民兵]]や非正規軍においても、この運用思想は利点をもつ。私費で購入する弾薬代を節約できる上に、訓練の時間も短くすることができ、正規軍と同じような行動を非軍事用の銃で行うことができる。戦時には軽装備の民兵でも、1個分隊に1丁の分隊支援火器を支給して火力を増強できる}}。 |
||
== 利点 == |
== 利点 == |
||
66行目: | 65行目: | ||
[[日本]]において近年まで分隊支援火器の役割を果たしていたのは[[62式7.62mm機関銃]]である。 |
[[日本]]において近年まで分隊支援火器の役割を果たしていたのは[[62式7.62mm機関銃]]である。 |
||
一般に7.62mmの[[弾薬]]を使用する[[機関銃]]は、[[汎用機関銃]]として運用されるが、[[64式7.62mm小銃]]と共通の弱装弾を用いるため、分隊支援火器に近い運用がなされていたのである。 |
一般に[[7.62x51mm NATO弾|7.62mm]]の[[弾薬]]を使用する[[機関銃]]は、[[汎用機関銃]]として運用されるが、[[64式7.62mm小銃]]と共通の弱装弾を用いるため、分隊支援火器に近い運用がなされていたのである。 |
||
[[89式5.56mm小銃]]が採用され、弾薬が[[5. |
[[89式5.56mm小銃]]が採用され、弾薬が[[5.56x45mm NATO弾|5.56mm]]に変更されると、それに合わせて[[ベルギー]]製の[[ミニミ軽機関銃]]を[[住友重機械工業]]が[[ライセンス生産]]し、5.56mm機関銃MINIMIとして配備され、62式機関銃との代替が進みつつある。ミニミは、[[アメリカ軍]]でほぼ同じものが[[M249軽機関銃|M249]]として採用されており、もちろん弾薬も共通である。<!--この項、軽機関銃と分隊支援火器とが混乱しているのでは?--> |
||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
2018年5月11日 (金) 14:25時点における版
分隊支援火器(英: Squad Automatic Weapon, SAW)もしくは軽支援火器(英: Light Support Weapon, LSW)は、分隊を火力支援するために容易に携行することが可能な機関銃である。
小銃弾以上の銃弾を使用する軽機関銃を指すことが多いが、汎用機関銃を分隊支援に使用する国も存在し定義は国によって異なる。
概要
分隊支援火器の基本的な運用法は、行軍時の野戦において弾幕を張ることで敵歩兵に頭を上げさせない火力制圧を行うものである。この援護射撃によって敵の攻撃行動を抑制し、味方の攻撃の自由度を確保する。また、敵の強襲に対する防御に使うこともできる。
分隊支援火器は基本的に1人で携行できるほど軽量で、戦闘部隊への補給の単純化・効率化を考慮して、弾薬はアサルトライフルと共通のものを使用する。汎用機関銃、または重機関銃は、その重量ゆえに攻勢に伴う移動にあまり適さず、三脚を用いて陣地の守備に用いられることが多いが、分隊支援火器は部隊移動を伴う野戦において二脚(バイポッド)を展開して使用されることが多い。分隊支援火器は陣地防御のような用途には向かず、そのような使い方は設計・運用思想とも合わない。
いくつかの分隊支援火器、たとえばロシア(ソ連)のRPK-74やイギリスのL86は、アサルトライフルを連続射撃が行えるように大きくしたものである。また、アサルトライフルと構造が似ているため、操作・整備技術の習得を早める効果があるとされる。おおむね、分隊支援火器は、次の2通りの基本パターンに分類できる。
- アサルトライフルからの発展型
- アサルトライフルを長銃身化、二脚を追加するなどしたもの。ストーナー63、XM8、M27 IAR、H&K MG36(H&K G36)など。
- 専用設計型
- 最初から個人携行用の分隊支援火器(軽機関銃)として設計されているもの。ミニミ軽機関銃、ブローニング自動小銃BAR、IMI ネゲヴなど。
運用思想
- 初期の分隊支援火器
- 分隊支援火器という言葉は第一次世界大戦-第二次世界大戦後しばらくまで、アメリカ軍で使用されたBARを指す言葉だった。この頃の軽機関銃はセミ/フル切り替えが可能で数十発程度の着脱式弾倉を備えており、小銃と軽機関銃の中間的な能力を持ち分隊火力の中核だった。
- アサルトライフル
- アサルトライフル時代の分隊支援火器を理解するには、アサルトライフルの運用思想を理解する必要がある。
- アサルトライフルは、通常はフルオート(連続)射撃が可能であるが、特に新兵など興奮しすぎた兵士は、戦闘においてあっという間に弾薬を使い果たしてしまう。また、フルオート射撃時にはアサルトライフルの小型軽量さが災いして反動が激しくなり、銃口が跳ね上がるので当然命中精度は低くなる。従って、多くの軍隊では一般兵士に対して、大規模な突撃または待ち伏せ攻撃以外の時には、フルオートを使用しないように教育している[注釈 1]。このような弾薬消費を抑える努力や工夫によって、兵站への負担軽減と弾薬を携行する前線兵士の疲労も同様に軽減できる。
- 分隊支援火器、軽支援火器
- しかし、この運用思想では、味方の突撃時に弾幕による制圧射撃が弱いか、または無いという問題が生じた。分隊支援火器は、この問題を解決するために、機関銃を突撃時にも携行できるようにする、という発想から生まれた。この武器の登場と、それを扱う専門の援護射撃兵の教育により、個々の兵士は弾薬を節約することができ、訓練時間を短くすることができ、かつ分隊が持つ弾薬の重量を軽減することができた[注釈 2]。
利点
- 信頼性が高く連続射撃が可能(弾幕による実効制圧力が増す)
- アサルトライフルと弾薬が共通なため、兵站の負担軽減になる
- 小型で持ち運びが容易な軽量の機関銃は、敵にとっては標的の特定と順位付けを行うのが難しい
- 二脚(バイポッド)によって高精度の射撃ができる
- 分隊支援火器の専門兵士がいれば
- アサルトライフルの発展型の場合
- 基本設計・基本操作が共通しており、射撃と保守の訓練期間が軽減できる
- 一部共通する部品については保守・修理で利便性が向上する
- 製造・取得コストの低廉化が期待できる
欠点
- アサルトライフルと共通の弾薬、つまり汎用機関銃より低威力の弾薬を使用するため、射程・殺傷力が劣り、正面からの撃ち合いでは『力負け』する(「アサルトライフルに毛が生えた」程度のもの)
- 二脚架運用である以上、三脚架に固定された汎用機関銃と比較するとことさら命中精度に劣る
- 従来の機関銃に比べると、強引に軽量化した分だけ構造的に無理が多く信頼性が低い
- 従来の機関銃とまったく互換性のないパーツ・弾薬を全軍に適切に供給し続けなければならない
- 機関銃手ともまた異なる分隊支援火器の専門兵士を、全軍の各分隊に十分配属できるようかなり大量に育成する必要がある
- アサルトライフルの発展型の場合
日本での運用
日本において近年まで分隊支援火器の役割を果たしていたのは62式7.62mm機関銃である。
一般に7.62mmの弾薬を使用する機関銃は、汎用機関銃として運用されるが、64式7.62mm小銃と共通の弱装弾を用いるため、分隊支援火器に近い運用がなされていたのである。
89式5.56mm小銃が採用され、弾薬が5.56mmに変更されると、それに合わせてベルギー製のミニミ軽機関銃を住友重機械工業がライセンス生産し、5.56mm機関銃MINIMIとして配備され、62式機関銃との代替が進みつつある。ミニミは、アメリカ軍でほぼ同じものがM249として採用されており、もちろん弾薬も共通である。
脚注
注釈
- ^ フルオート射撃の抑制で云えば、アメリカ陸軍の一般兵士用のアサルトライフル・M16自動小銃のA2・A4型は、フルオート機能を敢えて廃止してセミオート(単射)機能と3点バースト射撃(引き金を引くと3発だけ連射される)機能だけに限定したほどである
- ^ 民兵や非正規軍においても、この運用思想は利点をもつ。私費で購入する弾薬代を節約できる上に、訓練の時間も短くすることができ、正規軍と同じような行動を非軍事用の銃で行うことができる。戦時には軽装備の民兵でも、1個分隊に1丁の分隊支援火器を支給して火力を増強できる
- ^ 分隊支援火器は軽量化のために連続射撃時の制約が大きく、多数のフルオート射撃をした場合には、給弾過程で早発爆発するコックオフ事故やその他の動作不具合を起こし易い。そういった短所も含めた訓練が求められ、兵士の専門化は射撃精度の向上だけでなく兵器の効率的運用にもつながる