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'''ガングラン'''<ref>{{harvp|渡邉|2006a}}(梗概)<!--おそらく-->, cf. {{harvp|渡邉|2019a|pp=27–28}}</ref>({{lang-fro|Guinglain}}, {{lang|fro|Guinglan}}<ref name="BI-guinglain">Guingla(i)n, ''Le Bel Inconnu'' v. 3233 et passim, cf. {{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}} index, p. 409.</ref>、{{lang|fr|Giglan}}{{Refn|name="platin1530"}}、{{lang-enm|Gingalain|italics=no}}<ref>''Libeaus Desconus'', {{harvp|Mills ed.|1969}}の統一表記</ref>、 {{lang|enm|Gingelein|italics=no}}<ref name="LD-gingelein">''Libeaus Desconus'', vv. 7, 13 {{harvp|Mills ed.|1969}}, "Begete he was of Sir Gawain" v. 8; cf. {{URL|1=https://books.google.com/books?id=NxULAQAAIAAJ&pg=PA226 |2=Verzeichniss der Eigennamen}}, p. 226</ref>、{{lang|enm|Sir Gyngalyn/Gingalin|italics=no}}<ref>Malory, ''Morte Darthur'' {{URL|1=https://books.google.com/books?id=L-3df65ZwUAC&pg=PA364&dq=Gyngalyn |2=Book IX, Chap. xiii}}</ref>)は[[アーサー王物語|アーサー王伝説]]に登場する[[円卓の騎士]]。冒頭では主人公みずからその素性を知らず、つけられた綽名がそのまま『'''名無しの美丈夫'''』<ref>『名無しの美丈夫』の和訳題名は、渡邉の諸論文による。{{harvp|中島|1967|p=250}}では『'''美貌の無名騎士'''』と表記。</ref>の作品名となっており、[[貴種流離譚]]の一種である。のちに自分の名と[[ガウェイン]]卿とブランシュマルという[[妖精]](フェー)の間にできた息子と明かされる。
'''ガングラン'''(Gingalain)は[[アーサー王物語|アーサー王伝説]]に登場する[[円卓の騎士]]。[[ガウェイン]]卿の息子とされ、中世のロマンスには彼の物語が多く残されている。通称は版によって異なる場合があるが、'''ル・ベル・アンコニュ'''(Le Bell Inconnu)、'''ザ・フェア・アンノウン'''(The Fair Unknown)。どちらも表記が[[フランス語]]か[[英語]]かの違いであって、意味するところは「無名の美男子」。英語版では『[[リベアウス・デスコヌス]]』に登場し、知られている。フランスでは、ルノー・ド・ボージュ(Renaut de Beaujea)の『ル・ベル・アンコニュ』<ref> Colby, Alice M. ''The Lips of the Serpent in the "Bel Inconnu"''. Madrid: Playor. 1977</ref> 、現存はしていないが13世紀の写本、『Gliglois』で主人公を務めている。はっきりとはしていないが、『Gliglois』はガウェインの息子である人物、あるいはその他のフェア・アンノウンの物語群に属するものと考えられている<ref>Review author: Nitze, W. A. ''Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century''. Modern Philology. 1933</ref><ref>Livingston, Charles H. ''Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century''. Cambridge: Harvard University Press. 1932</ref>。


代表する作品は、ルノー作『名無しの美丈夫』(現代{{lang-fr|Le Bel Inconnu}}、12世紀末~13世紀初)は{{efn2|「ル・ベル・アンコニュ」のような現代フランス語題名を音写したカナ音写で解説する学術書をみない。}}、英訳題名『Fair Unknown』が充てられる<ref name="fresco-ed-tr-biaus&fair"/>。中英詩版は『[[リボー・デコニュ]]([[:en:Libeaus Desconus|Libeaus Desconus]])』<ref>{{harvp|中島|1967|pp=250, 253}}で『リボー・デコニュ』と表記。</ref>{{efn2|name="libeaus-kari-kanahyoki"|「リベアウス・デスコヌス」は、非専門家「馬虎」氏による試訳(現代訳から重訳)であって、当人いわく"登場人物の名称は正しい発音が分からなかったため、ほぼ全員がいい加減なものです"。邦文の学術文献で確認できたかぎりでは、中英語のまま引用している。}}。
== フェア・アンノウン物語群 ==
'''フェア・アンノウン'''(Fair Unknown)とは、[[貴種流離譚]]の一種。素性を知らない、あるいは隠している無名の美青年を主人公とする物語。たいていは本名の代わりに[[ニックネーム]]を付けられた主人公が冒険の末に貴婦人の愛を得え、また最終的には高貴な血筋であることを認められる、という形式を取る。


『名無しの美丈夫』の梗概は、おおよそ次の通りである:自らの名も素性も名乗れぬ若者が、アーサー王の宮廷を訪れ、唐突に褒美を所望し、その騎士にくわわる。「名無しの美丈夫」の仮称を得るや、そのとき駆け込んできたウェールズの王女/女王{{efn2|name="queen"|冒頭では、そのとらわれの身の王族の女性は、名前を伏せグラングラス王の娘(177行目)とのみ紹介されるので、「王女」と思えるが、後のくだりで自ら「女王を主張する」者であると語る(3386行)。}}の侍女エリー<!--引用元:{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}-->が懇願する、主を救うための「恐ろしい接吻」({{lang-fro|Fier Baissier}})の冒険(いわばメインクエスト)を承諾し、王女救出に向かう{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}。が、エリーや小人を伴う道中で、いくつもの艱難(いわばサイドクエスト)が待ち受ける<ref>原典(''Bel Inconnu''編訳本等)参照。</ref>。とくに黄金島では、「白い手の乙女」({{lang-fr|La Pucelle à Blanches Mains}})に無理やり結婚をせまる相手「灰色のマルジエ」<ref name="BI-malgiers"/>を倒し、その「乙女」との結婚資格者になる{{efn2|形式のみでなく心情的にも恋愛対象{{sfnp|Schofield|1895|p=58}}。Colby-Hall論文、}}<!--{{sfnp|渡邉|2019a|pp=27–28}}-->。しかし使命を思い出して置き去りのような形で島を去り、王都スノードンに行き、ウェールズ王女/女王ブロンド・エスメレが蛇竜〔[[ヴイーヴル]]〕<ref name="BI-guivre"/>(≈[[ワイバーン]])に化身された魔法を接吻で解除して冒険を果たす<!--{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}-->。王女もまた主人公に嫁することを欲する。「白い手の乙女」との再会を果たすも、アーサー王は(美丈夫を王女と娶せて、配下の騎士として手元におきたい腹づもりで{{sfnp|Colby-Hall|1984|p=121}})、美丈夫を[[馬上槍試合]]に召喚する<!--{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注14)}}-->。最愛の乙女に送り出された美丈夫は、これを失恋と決別と受け止め、縁談のブロンド・エスメレ姫と結婚する{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=121–122}}。
この場合の「Fair」は「公正・公平」の意味ではなく、文語的な表現として「美しい」の意味。[[マイ・フェア・レディ]]とだいたい語法は同じ。


中英語版でも主人公は、黄金島に立ち寄り、「愛の淑女」(またはアモール婦人)[仮訳名]を助けているので{{Refn|group="注"|name="dame_damour"}}、近年の解説のように恋愛交友があったとも推量できるが<ref name="ArthEncy-chestre"/>、19世紀の解説<!--スコーフィールド等-->では、中英語版の主人公は迷わず一途であり、人面の蛇竜{{sfnp|Schofield|1895|p=203}}{{efn2|中英語版では女性の顔をした有翼の蛇竜〔[[ワーム (伝説の生物)|ワーム]]〕{{sfnp|Kaluza ed.|1890|pp=117–118}}。}}の姿から「接吻」で救った「スノードンの婦人」とすんなり結婚を決めた、としている{{sfnp|Schofield|1895|p=58}}。
この物語群に属する人物として、ガングラン卿のほか、ガングラン卿の叔父にあたる「'''ボーメン'''」(美しい手、転じて女性的で騎士にふさわしくない手)こと[[ガレス]]卿、[[パーシヴァル]]卿(ただし[[アーサー王の死|マロリー版]]でなく[[クレティアン・ド・トロワ|クレティアン]]版、[[トマス・ブルフィンチ|ブルフィンチ]]版)、「'''ラ・コート・マル・タイユ'''」(だぶだぶなコート)こと[[ブルーノ (アーサー王物語)|ブルーノ・ル・ノワール卿]]<ref>Wilson, Robert H. ''The "Fair Unknown" in Malory''. PMLA. 1943</ref>など。その他、ガングラン卿の父、ガウェイン卿も少年期は素性を知らず、「外套の騎士」(Kight of Surcort)と名乗り旅をしていた時期がある。


同じくゴーヴァンの息子を題材とした後年の古フランス語詩『ボードゥー』(「穏やかな美丈夫」)の題名主人公はオノレ({{lang-fr|Honorée}})という剣を帯びる{{sfnp|渡邉|2019b|p=239}}。中世イタリア語やドイツ語の類話も存在し、また近世フランス語の散文翻案もある。
== ガングランの冒険 ==
だいたい、ほとんどのロマンスにおいてあらすじは共通しており、著者によって若干強調する部分が異なる程度である。ガウェイン卿は森で出会った[[妖精]]・ブランシュマル(Blanchemal、フランス語で白い痛み)との間にガングランをもうける(母親がラグネルになっているものもある)。ブランシュマルはガングランの出生をひた隠しにし、一切血筋について情報が入らないようにしていた。しかし、ガングランは森で少年の[[騎士]]に出会ってしまうと、自分も騎士になることを望み<ref>Broadus, Edmund Kemper. ''The Red Cross Knight and Lybeaus Desconus''. Modern Language Notes. 1903</ref>、アーサー王の宮廷に旅立つ。ここでガングランは自分の名前を知らなかったので、「ル・ベル・インコニュ卿」として騎士に任命される。


== 登場作品 ==
やがて、宮廷に[[ウェールズ]]の王女、「'''金髪のエスメレ'''」からの使者がやってくる。強力な[[魔法使い]]のマボン(Mabon)<ref>Colby-Hall, Alice M. ''Frustration and Fulfillment: The Double Ending of the Bel Inconnu''. Yale French Studies. 1984</ref>の包囲攻撃に苦しめられており、是非とも助けて欲しいというのである。ル・ベル・インコニュはアーサー王にこの使者と王女の侍女を連れ、冒険の旅に出ることを願い出るのであった。
フランスでは、{{仮リンク|ルノー・ド・ボージュー|en|Renaud de Beaujeu}}の『名無しの美丈夫』(Le Bel Inconnu、略称BI、12世紀末~13世紀初、6266行{{Refn|事典によれば全6266行とあるが<ref name="ArthEncy-renaut"/>、{{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}の編訳本、G. Perrie Williams の 1929年編本<!-- 自己出典ということで、第三者書物はここではciteしないが、"G. Perrie Williams+6266"で Google れば複数で確認できる。-->. {{harvp|Hippeau ed. |1860}} ends with 6122 lines.}})であり{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}{{Refn|1191年より後~1212/13年の間に成立<ref>{{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}, [https://books.google.com/books?id=6-JBEAAAQBAJ&pg=PT11 p. xi]</ref>。}}。原典の古フランス語読みでは{{lang|fro|Li Biaus Descouneüs}}であるが、英訳題名(主人公名)"Fair Unknown"が充てられる<ref name="fresco-ed-tr-biaus&fair">{{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}編訳本の副題に"'Li Biaus Descouneüs'; 'The Fair Unknown'"。同 index "Biau Descouneü"参照、本文 v. 131他。</ref>{{efn2|けっして新訳名ではなく、すでに注英語版『[[:en:Libeaus Desconus|Libeaus Desconus]]』において、その名前が "Þe faire unknowe"の意味であると訳して説明されている<ref>''Libeaus Disconus'', v. 83, {{harvp|Kaluza ed.|1890}}, note, p. 132: "eine wörtliche übersetzung des frz. namens".</ref>。}}。この作品は、唯一、
[[シャンティイ城]]付設図書館/[[コンデ美術館]]蔵472番写本に伝存する{{sfnp|Perret ed. |2003|p=viii}}<ref name="arlima.net">{{cite web|url=http://www.arlima.net/qt/renaut_de_beaujeu.html|title=Renaut de Beaujeu - Arlima - Archives de littérature du Moyen Âge|work=arlima.net|access-date=2024-02-01}}</ref>。


英語版では、[[中英語|中英詩]]『[[:en:Libeaus Desconus|Libeaus Desconus]]』{{efn2|name="libeaus-kari-kanahyoki"}}(略称LD、14世紀、2232行{{sfnp|Schofield|1895|p=1}})に翻案されている。さらには中世の類話作品にイタリア版『Carduino』(略称Car.)、ドイツ版{{仮リンク|ヴィルント・フォン・グラフェンベルク|en|Wirnt von Grafenberg|label=『ヴィーガーロイス』}}(略称Wir.)がある{{Refn|name="wigalois-kana"|『ヴィーガーロイス』のカナ表記は{{harvp|渡邉|2019b}}による。}}<!--アジア遊学, 第 59~62 号 https://books.google.com/books?id=WCA4AAAAMAAJ&q=ヴィルント・フォン・グラフェンベルク では「ヴィガロア」-->。<!--スコーフィールドにより-->比較分析されている四作品(BI, LD, Car., Wig.)には(差異の部分も)があるが<ref name="schofield-comparison">Cf. {{harvp|Schofield|1895}}, pp. 2ff において四作品の比較分析</ref>、おおよそにおいて粗筋は一致する{{Refn|name="busby-basic_plot"|Busby:"The basic plot (also present in the It. ''Carduino'' MHG ''Wigalois''.. ", etc. "enhanced by motifs found elsewhere to be found elsewhere: sparrowhawk contest.."<ref name="ArthEncy-renaut"/>}}。
こうしてウェールズへ向かう途中、ル・ベル・インコニュはさらにいくつかの冒険をすることになる。その中でも特筆すべきは魔法使い、マルジェ・ル・グリ(Malgier le Gris)との戦いである。ル・グリは黄金の島(Ile d'Or)の女主人(版によっては妖精や魔法使い)、「'''白い手のピュセル'''」(Pucelle aux Blanches Mains)の求婚者であったが、ピュセルからは嫌われていた。そのため、ピュセルはル・グリを打ち負かし、自分を救い出したル・ベル・アンコニュに感謝し、領地を持参金にして結婚を申し込む。2人は結婚する気になるものの、ル・ベル・アンコニュはなるべく早いうちにウェールズの王女を救い出すという義務を負っていたので、再び旅に出るのであった。


また{{仮リンク|ロベール・ド・ブロワ|en|Robert de Blois}}が『ボードゥー』({{lang|fr|Beaudoux}}、「穏やかな美丈夫」13世紀後半)の題名で著した{{sfnp|渡邉|2019a|p=239}}<ref name="MedFrEncy1995-gawain_romances"/>もゴーヴァンの息子が主人公であるが、必ずしも『名無しの美丈夫』の類話扱いとはされず、先行作品と類似したエピソードがみとめられる作品という位置づけで解説されている{{Refn|渡邉{{harvp|渡邉|2019a|pp=27–28}}{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}。}}。
そして、ル・ベル・アンコニュはエスメレを助け出すことにも成功する。この後、ル・ベル・アンコニュは、第一の訪問の際、突然辞去したことの謝罪のため、再びピュセルのもとへ訪問しばらく「黄金の島」に滞在し続けた。


古フランス語の『[[グリグロワ]]』(Gliglois、13世紀成立){{Refn|リビングストン編本(1932)<ref>Livingston, Charles H. ed. (1932). ''Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century''. Cambridge: Harvard University Press.</ref>。写本は1904年焼失したが原稿や書写等より翻刻。}}も、名前は似ているが、<名無しの美丈夫>伝説に充てる仮説は、その後においては懐疑的にかえりみられている{{efn2|[[ガストン・パリス]]も一時は<ル・ベル・アンコニュ>のサイクルを仮説したが、のち放棄した<ref name="nitze1933"/>。}}<ref name="nitze1933">{{cite journal|last=Nitze |first=W. A. |author-link=<!--William A. Nitze--> |author-mask=Review author: Nitze, W. A. |title=Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century |journal=Modern Philology |volume=30 |number=3 |date=February 1933 |url=<!--n/a--> |pages=323–325 |jstor=434453}}</ref>。
アーサー王は、帰還しないル・ベル・アンコニュを宮廷におびき寄せるために[[馬上槍試合|トーナメント]]を開催することにし、さらに彼をウェールズの女王となったエスメレと結婚させようと考えた。トーナメントに参加するならば、ル・ベル・アンコニュはピュセルの愛を失ってしまい、永遠に会うこともなくなるだろうと思われた。だが、その犠牲にもかかわらず、ル・ベル・アンコニュはトーナメントに参加することを決意する。また、ピュセルも献身的にもル・ベル・アンコニュに尽くそうと、彼がトーナメントに参加できるよう、馬と従者、鎧などを輸送するのであった<ref>Sturm, Sara. ''The "Bel Inconnu's" Enchantress and the Intent of Renaut de Beaujeu''. The French Review. 1971 </ref>。そして、最終的にガングランはエスメレと結婚し、またガウェイン卿の息子だったことが明らかにされる。この結婚について、ボージュは結婚とは情緒的な目的より社会的なものを満たすものだと言うことを強調している。

=== サイクル分類 ===
<!--§フェア・アンノウン物語群-->
[[渡邉浩司]]は、ルノー作『名無しの美丈夫』を、聖杯探求を伴わない物語群として《ゴーヴァン・サイクル》に分類する{{sfnp|渡邉|2006a}}<!--幻想の武器博物館 より拝借-->

{{仮リンク|ジェシー・L・ウェストン|en|Jessie Weston (scholar)}}(1897年)が用いた「名無しの美丈夫サイクル」({{lang-en|Fair Unknown cycle}})<!--フェア・アンノウン物語群(この表記は未確認)-->は、単に「名無しの美丈夫」の類話の仏・英・伊・独版を総じて指しているが<ref name="weston1897"/>、それ以前にこれらを4作品を比較分析した{{仮リンク|ウィリアム・ヘンリー・スコフィールド|en|William Henry Schofield |label=W・H・スコフィールド}}の研究があり、それらでは[[パーシヴァル]]卿(ペルスヴァル)伝説よりの起源・分離説を提唱しているが{{sfnp|Schofield|1895|pp=146–147, 153}}<ref name="weston1897"/>、これは演繹的・飛躍的ではないかともされる。

また、ペルスヴァルのみでなく、マロリーにおけるガウェインの弟[[ガレス]]卿(つまりガングランの叔父)の物語との類似性は何遍にもわたり指摘されている{{Refn|Wilson ではゾンマー(Oskar Sommer)やウェストン、ヴィナヴェール(Eugène Vinaver)などの意見を簡略にまとめる<ref name="wilson1943"/>。}}{{Refn|{{harvp|Broadus|1903}} の論文もまた、<!--『妖精の女王』を仲介した意見であるが-->スペンサー『妖精の女王』の赤十字の騎士は、ガレスより美丈夫に似る、と指摘する<ref name="broadus1903"/>}}<ref name="nakajima1967">{{harvp|中島|1967|p=250}}ではマロリーの「ガレス物語」と"「リボー・デコニュ」やフランスの『美貌の無名騎士』,更に.. 『散文トリスタン』の中の『ぼろ衣の騎士』( La Cotte Mal Tailée )に相似"を指摘。</ref>。

「ラ・コート・マル・タイユ」(寸法が合わないコート){{efn2|[[ブルーノ (アーサー王物語)]]参照。}}との類似性もみられる<ref name="wilson1943"/><ref name="nakajima1967"/>。

== 梗概と比較 ==
<!--ガングランの冒険-->
『名無しの美丈夫』の梗概は、[[渡邉浩司]]が2006年論文で発表しているが<ref>{{harvp|渡邉|2006a}}、「『名無しの美丈夫』におけるゴーヴァン」。</ref>{{Refn|別稿でもブロワ作『ボードゥー』と『名無しの美丈夫』には共通エピソードがあるとして、簡略に後者のあらすじ内容を説明する。<ref>{{harvp|渡邉|2019}}、《伝記物語》の変容(その3 )―ロベール・ド・ブロワ作『ボードゥー』をめぐって―、pp. 27–28等</ref>。}}。

中世の類話には中英語版『Libeaus desconus』(LD)、イタリア版『カルドゥイノ』(Car.){{Refn|カナ表記は、イタリア文学者ではないが、井村君江の事典(のデータベース)で確認<ref name=imura-taizen-carduino/>。}}、『ヴィーガーロイス』があり{{Refn|name="wigalois-kana"}}、四言語の類話ロマンスにおいてあらすじはおおよそ共通しているが{{Refn|name="busby-basic_plot"}}、それらの比較分析にみられるように、差異の部分は少なからずあり<ref name="schofield-comparison"/>、いずれもどこか他の作品から借用可能なモチーフ展開を使って肉付けしている{{Refn|name="busby-basic_plot"}}。

『名無しの美丈夫』(6266行)に比べ、中英語版(2232行)は、単純な行数比較で1/3程の長さである。19世紀の学者の数名は(W・H・スコフィールド等)、中英語版に近い簡素なフランス語祖本が存在し、ルノーはこれに多量の改変や脚色を加えたものだとする<ref>"Changes introduced by Renaud"の章、pp. 106–145</ref>。しかし近年の参考書には真逆な意見を述べており、これによれば中英語版はやはりルノーの作品の翻案であり<ref name="ArthEncy-renaut"/>、あるいは複数の原本を素材に用いたのであろう、とも推察されている<ref name="ArthEncy-chestre"/>。

=== 素性の秘密 ===
『名無しの美丈夫』では、アーサーの宮廷({{仮リンク|カイルレオン|Caerleon}})に、出自も自分の名も知らぬ青年が訪れる。読者もそれを知らされない。この隠された素性というのは、中世文学によくみられる「謎」の技巧の一例である{{Refn|他にも{{仮リンク|緑の騎士|en|Green Knight}}など、アーサー王伝説系の文学のなかに「謎」の例が挙がる<ref name="gray2015"/>。[[マリー・ド・フランス]]の『{{仮リンク|とねりこ|en|Le Fresne (lai)}}』の例は、アーサー王題材ではないが[[ブルターニュもの]]には数えられる。また、「女性が求める最たるものはなにか」の謎<!-- 'what do women most desire' occurs in ''-->は、『{{仮リンク|ガウェイン卿とラグネル姫の結婚|en|The Wedding of Sir Gawain and Dame Ragnelle}}』に登場する(参照:『Arthur and Gorlagon』と[[クラウ・ソラス]]の民話の「女性にまつわる唯一の物語」モチーフ。}}。このフランス版の物語では、主人公の「ガングラン」という名前や出自は、『名無しの美丈夫』は作品の中盤まで言及されないが<ref name="BI-guinglain"/>、このじらしは、「接吻」冒険達成のドラマ効果を引きあげる狙いゆえ、とされる<ref name="weston1897"/>(参照:{{section link||出自の啓示}})。

ところが中英語版ではいきなり冒頭で、主人公の名(Gingelein)と、ガウェイン卿の息子であることが(読者には)暴露されてしまう<ref name="LD-gingelein"/>。これは「青少年期(youth, ''enfance'' )」の段などと称されているが、中英語版が祖本に近いと見解する学者かるすれば<!--上述、W・H・スコフィールド等-->、ルノーが意図的に冒頭から削除した情報と解されている{Refn|スコフィールド Schoefield、ウェストン女史 Weston や、のちの Stromberg が、この"youth" ("enfance"<ref name="stromberg1918"/>) が BIにおいて割愛"omitted" された、と記述する{{sfnp|Schofield|1895|p=2}}<ref name="weston1897"/>。}}。母親は<!--(母親がラグネルになっているものもある)[出所不詳]-->、(フランス版と同じく)容貌うるわしい我が子を"美しい息子"(Beaufis)と呼んでいたが、ガングランは森で少年の[[騎士]]に出会ってしまうと、自分も[[騎士]]になることを望みだす<ref name="broadus1903"/>。

ちなみに主人公が向かうアーサーの宮廷の場所は、言語版により異なる。中英語版では[[グラストンベリー]]であり
{{sfnp|Schofield|1895|p=2}}、イタリア版では[[キャメロット]]、ドイツ版では Karidôl ([[カーライル (イングランド)|カーライル]])である{{sfnp|Schofield|1895|p=138}}。

=== 騎士叙勲と冒険拝命 ===
青年は、アーサー王にいきなり内容不明「褒美」を所望し、快諾される<ref>''Le Bel Inconnu'' vv. 82–89</ref>。王は名を聞きに人を遣わすが、知らないと返答され、「名無しの美丈夫」というあだ名を授けられる<ref name="fresco-ed-tr-biaus&fair"/>。まもなくガル(ウェールズ)<!--渡邉の表記はおそらく『ボードゥー』解説と同じく英名「ウェールズ」であろう-->から"姫君の侍女エリー"<ref>{{harvp|渡邉|2019a|loc=注12)}}の表記。</ref><ref>{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}, Helie (v. 197)</ref>が駆け込み、主(あるじ)たるウェールズ王女/女王{{efn2|name="queen"}}救助のための「恐ろしい接吻」の冒険を依頼する。他の騎士がしり込みするなか、「美丈夫」が約された「褒美」として救助使命の拝命を要求する<!--vv. 209–212-->。アーサー王は危ぶんで最初は渋るが、美丈夫を騎士に叙勲し、拝命を許す<ref>''Le Bel Inconnu'' vv. 184–227</ref>。エリーは"最高ならず最低"の騎士を押し付けられた、と不満である<ref>''Le Bel Inconnu'' vv. 228–232</ref>。中英語版でも、使者のエレイン{{Refn|group="注"|中英語 Elene の暫定カナ表記。[[エレイン (アーサー王物語)]]を借用。中英語ではないが、Elene は流布本系([[ランスロ=聖杯サイクル]])のテクストの[[バン王]]の妃([[ランスロット]]の母)の名の異綴りとして確認できる。<!--参考までに古英詩『[[:en:Elene|Elene]]』はコンスタンティヌス帝の母のヘレナを指すが、一般的にはカナ表記せずに学術文献で引用されるようである。-->}}が、児童をよこしたと憤慨する{{sfnp|Schofield|1895|p=10}}。

=== 道草道中 ===
<!--ウェールズへ向かう途中、ル・ベル・インコニュはさらにいくつかの冒険をすることになる-->
名無しの美丈夫は、不満たらたらなエリー、その連れの小人と、宮廷よりあてがわれた盾持ち([[従士]])のロベールを伴い<ref name="brandsma2007"/>{{Refn|group="注"|中英語版には、そのような従士の出番があからさまには見られないので、スコフィールドは編者{{仮リンク|オイゲン・ケルビンク|en|Eugen Kölbing}}等も同調するとして、ルノーの改作(脚色)だと断じている。しかし編者カルーツァは反論として、中英語版が従士を切り捨てたものの、その役割を果たす人物が必要と気づいたとき、黄金島の「愛の淑女」に仕える家宰/家令ジフレット<!--仮表記。Biに登場する同名のジフレは円卓騎士--> Gifflet が一行に加わった、と辻褄を合わせたとしている。反論はスコフィールドには納得いかないもので"justification"(正当性、根拠)に欠けるとしている({{harvp|Schofield|1895|pp=110–111}})。}}、旅路に出るが、実績のなかったこの騎士は、途中で数々の冒険、ないし敵との遭遇を経験する。

最初の対決は、《危険な渡瀬》({{lang|fro|Gue Perilleus}})を守るブリオブリーエリス(仮表記、{{lang|fro|Blioblïeris}})<!--円卓騎士のブレオベリス卿 [[;en:Bleoberis]]の名の借用であろう -->だったが<ref>''Bel Inconnu'' vv. 321–339、Blioblïerisの名は v. 339</ref><ref name="brandsma2007"/>、その者を降すと、今度はその仲間2名(3名)に挑まれた{{Refn|''Bel Inconnu'', vv. 527–531。ブランズマは"two cronies"とするが<ref name="brandsma2007"/>、Fresco の index に照らすと 3人であり、グレ領主エラン・ル・ブラン(仮表記、Elins li Brans, sire[s] de Graie[s]、v. 527)、セの騎士(li chevalier[s] de Saie[s]、v. 528)は別個の人間、これにウィョーム・ド・サルブラン(仮表記、Willaume de Salebrant、v. 529)が加わる。}}。

『名無しの美丈夫』では、助太刀する仲間が「サレブラントのウィリアム」(英語読み)であったが、中英語版『Libeaus desconus』では、「サレブランシュのウィリアム」({{lang|enm|William of Salebraunche}})という騎士が「危険の谷/橋」を見下ろす「冒険の城/礼拝堂」で待ち受けるのが初戦となる<ref>{{harvp|Weston tr.|1902|p=27}}: "Castle Adventurous.. upon the Vale Perilous"</ref><ref>''Libeaus Desconus'', {{harvp|Kaluza ed.|1890|pp=19ff}}: {{lang-enm|chapell auntrous}} (var. {{lang|enm|castell au[ntrous]}} ''C''., etc., v. 302) and "Upon þe point perilous" (var. pont ''I''; bridge of perill ''P''., vale ''C''., v. 306).</ref>。

=== 黄金島の白い手の乙女===

道中での数ある副次的な冒険のうち、特筆すべきは黄金島の白い手の乙女<ref name="BI-blances_mains">''Bel Inconnu''、初出は v. 1941。"Blances Mains, la Pucele as"(古フランス語の表記)、{{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}} index, p. 406において"fairy mistress of Guniglain, lady of Ille d'Or<!--ママ。古フランス語の綴り-->とある。<!--なお原典では"fay"と明記されるのは、彼女ではなくガングランの母親のBlancemalである。--></ref></ref>の救済である。この黄金島の女主人は、望まぬ相手である「灰色のマルジエ」との結婚が<ref name="BI-malgiers">Malgier le Gris({{lang-fro|Malgier[s] li Gris}})。名前の登場は v. 2192、カナ表記は{{harvp|渡邉|2019a|pp=27–28}}参照。</ref>、期限のせまるある条件下で成立する手はずになっていた。番人を務めあげ、7年間のあいだすべての挑戦者を退ければその者と嫁ぐ約束で、残りあと2年であった<ref>vv. 2021–2033</ref><ref name="colby-mostimportant">{{harvp|Colby-Hall|1984|p=121}}: "The most important of these is the defeat of Malgier le Gris,..", etc.</ref>{{sfnp|渡邉|2019a|pp=27–28}}。美丈夫は尋常な勝負でマルジエを撃ち滅ぼし、白い手の乙女の王国の所有と、彼女との婚姻の権利を手にした。形式の身でなく、このときは相思相愛の仲になっていた<ref>vv. 2204ff</ref>{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}

名無しの美丈夫は、この黄金島にいささか長居してしまう(武芸を忘れて女性にかまける行為は、文学評論では''recreantise''「惰弱」と呼ばれる{{Refn|name="recreantise"}})が、主冒険(メインクエスト)を思い出すや、礼儀をわきまえず唐突に(非騎士道的に)彼女の元を去り、ウェールズの姫の救助に向かう{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}。

「白い手の乙女」は「白い手の淑女」({{lang-fro|Demoiselles as Blances Mains}})とも一か所では表記されるが<ref>v. 319.</ref>、魔法の使い手であるため解説者から「妖精〔フェー/フェアリー〕」とも呼ばれている<ref name="BI-blances_mains"/><ref>{{harvp|Colby-Hall|1984|p=121}}: "the use of magic has transformed her into a veritable fay"</ref>。
{{Refn|イポー編本({{harvp|Hippeau ed.|1860|p=114}}、3211行目<!--新編本とは採番は違うので注意-->)で"Fius es à Blances mains la fée(白い手〔ブランシュマン〕の妖精の息子)"とあるが明らかな誤記・誤植で、この箇所では母親名であるブランシュマルが入る({{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}, v. 3237)。スコフィールド白い手の乙女の事を"Fairy of the Ile d'Or(黄金島の妖精)"と呼んでいるが({{harvp|Schofield|1895|212}})、イッポ―編本の誤記は認識しており、その箇所は[[:en:Wendelin Förster|Wendelin Foerster]]に拠る写本読みに置き換えている({{harvp|Schofield|1895|p=52}} and n1)。}}。

メインクエストを終えたのち、白い手の乙女との再会し、突然辞去した非礼を詫びる機会が得られるが<!--謝罪のため、再びピュセルのもとへ訪問しばらく「黄金の島」に滞在し続けた。-->、その際に彼女は魔法を使って美丈夫の冒険や出自の知得を支援していたことを明かす{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}。

英語版では黄金島の主は「愛の婦人」(仮訳名。{{lang-enm|Dame Amoure/dame d'amour}})と称す{{Refn|group="注"|name="dame_damour"|{{harvp|Kaluza|1890|p=83}} ''Libeaus desconus'' 1480行の本文では小文字のままの普通名詞"dame d'amour"を採用するが、脚注された異本には大文字(固有名詞)になっている読みもある: dame la d. damore C; la dame Amoure L; Madam de Armoroure P; Diamour Denamower A)。 近年の事典などでは固有名称"Dame Amoure"がみられる<ref name="ArthEncy-chestre"/>。}}<ref name="ArthEncy-chestre"/>

=== 蛇竜と交わす接吻 ===
さてウェールズに到達した美丈夫は、その主冒険〔メインクエスト〕である「恐ろしい接吻」({{lang-fro|Fier Baissier}}<ref name="BI-kiss">''Le Bel Inconnu'' vv. 192, 3206, 4997, cf. {{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}} index, "Fier Baissier" p. 408.</ref>)を果たす。「恐ろしい接吻」の試練とはすなわち、悪玉の魔法使いによって蛇の姿に変えられたウェールズの姫を、元通りにするためにキスをしなければならないという、童話定番のモチーフであるが、正確を期すならばキスを与えるというよりも、近づいた蛇竜〔[[ヴイーヴル]]〕(≈[[ワイバーン]])<ref name="BI-guivre">v. 3128: "une wivre fors issir"</ref>(火焔を吐く怪物)からキスを受けたのである{{sfnp|Schofield|1895|p=203}}<ref name="weston1897"/>。中英語版(やイタリア版の第2歌<!--''secondo cantare''--><ref name="ArthEncy-carduino"/>)でも、接吻による蛇女の解呪がおこなわれる。

『名無しの美丈夫』の主冒険の相手であるウェールズ姫は、人間に戻るとブロンド・エスメレを名乗り{{Refn|カナ表記は渡邉による{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}。}}、その名前が初めて明かされる。すでにグラングラス王の娘とは明かされていたが{{Refn|冒頭/初出では"Gringras" (v. 177)という綴りだが、英訳では以降文のすべてで用いられる"Guingras"の綴りに統一している。逆に渡邉のカナ表記は初出のグラングラスである{{sfnp|渡邉|2019a|loc=注12)}}。}}、王女と言うより、じつはウェールズの女王({{lang|fr|roïne}})の位にあり、ここ王都[[スノードニア|スノードン]]に座する君主であると名乗る<ref>"acknowledge queen"; "Snowdon" {{lang|fr|Senaudon}}); vv. 3385–8</ref>。

中英詩では、「スノードンの女王/貴婦人」(Queen of Sinadoune/Lady of Synadowne)<ref name="broadus1903"/> がこれに相当するQueen of Sinadoune (var. Lady of Synadowne),<ref>''Libeaus Disconus'', v. 1512, {{harvp|Kaluza ed.|1890|p=84}}, "Of Sinadoune þe quene"; footnote, variants: S.]..doune ''I'', Lady of Synadowne ''A''''P''.</ref>。女性の顔をした有翼の蛇竜〔[[ワーム (伝説の生物)|ワーム]]〕の姿に変えられていたが<ref>''Libeaus Disconus'', vv. 2095–2096: "{{lang|enm|A worm..wiþ a womannes face}}", {{harvp|Kaluza ed.|1890|pp=117–118}}</ref>{{sfnp|Schofield|1895|p=203}}、リボー・デコニュに接近して接吻した{{Refn|"{{lang|enm|And after þat kissinge /the wormis taile and winge/Swiftly fell her fro}}", vv. 2113–2115</ref>}}<ref name="broadus1903"/>。イタリア版『カルドゥイノ』第2歌でも、鎖につながれた蛇({{lang-it|serpe}})との接吻で、ベアトリチェ(Beatrice)が解放される<ref name="ArthEncy-carduino"/>。

女王を蛇の姿に変えて捕らえていた悪玉魔法使いたちの名も、おおよそ合致している。フランス語版では兄がマボン({{lang-fro|Mabons}})<ref>''Le Bel Inconnu'' vv. 3347 およびこれ以前の文。</ref>で弟が「残酷な[騎士]エヴラン」({{lang|fro|Evrains li Fier}})である<ref>''Le Bel Inconnu'' vv. 3368.</ref><!--カナ表記は渡邉の各稿からは未確認だが、ぶれることはないと思う-->。中英語版での、悪者の名前も同様である(Mabon, Irain) {{sfnp|Schofield|1895|pp=124–126}}。

==== 出自の啓示 ====

上述で暗喩したように、「名無しの美丈夫」がその名を知るのはこの中盤で、主冒険「恐ろしい接吻」を果たした直後に、頭の中に声が流れ込み、ガングランと言う洗礼名や、父親がガウェイン卿、母親が妖精ブランシュマルであることを明かすref>{{lang-fro|Blancemal la Fee}} 'v. 3237), etc., cf. ''Le Bel Inconnu'' vv. 3205–3243, and after, {{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992|pp=190-193}}</ref><ref name="weston1897"/>。この箇所では主人公は「神よ」と問いかけているので<ref>v. 3205</ref> (神の啓示と思い込まされるが)、魔女でもある「白い手の乙女」は、のちに再会した時に、その声や啓示は自分がなす技だったと明かす.<ref>{{harvp|Schofield|1895|p=212}}引き{{harvp|Hippeau ed.|1860}}, vv. 4903–4910,{{URL|1=https://books.google.com/books?id=7Ks5AAAAcAAJ&pg=PA174|2=p. 174}}。旧編本とは行番が異なるが、新編本では''Le Bel Inconnu'' vv. 4995–5002, in {{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992|pp=298-299}}に相当する: "the voice you heard,/and which told you your name.. was none other than my own"。また{{harvp|Colby-Hall|1984|p=121}}: "he learns that it was her voice that proclaimed his identity", etc.も参照</ref>。

おおよそ似たような場面がドイツ版『ヴィーガーロイス』にみつかる、という指摘がある{{Refn|指摘は Albert Mebes に拠るもので、ドイツ文を Schonfieldが引用している。}} 。そちらでは主人公が竜退治(魔法使いと無関係)したのち、気絶している間に身ぐるみ剝がされており、混乱して居場所がわからない精神状態だが、とりあえず自分の母親がシュリア女王フロリエ(Floriê)で父親がガーウェイン(Gâwein)と思い出すことができるシーンである。ただしこれは既に知っている情報を諳んじたにすぎず、出自の啓示が起きた訳ではない{{sfnp|Schofield|1895|p=213}} 。

=== 美丈夫の結婚 ===
名無しの美丈夫に助けられたウェールズの姫も、自分との婚姻を願っている{{sfnp|Colby-Hall|1984|p=121}}。しかし美丈夫は既に「白い手の乙女」とも許嫁な関係であり、心情からすれば後者が本命の恋愛対象なので、葛藤が生じる<ref name="colby-dilemma">{{harvp|Colby-Hall|1984|p=121}}: "Guinglain is faced with the dilemma of choosing between two offers of marriage"</ref>。

そして美丈夫が「白い手の乙女」と再会を果たしている最中に、アーサー王は、彼を宮廷におびき寄せるため[[馬上槍試合]](トーナメント)を開催することにし、さらに彼をウェールズの女王となったエスメレと結婚させようと考えた。「白い手の乙女」は、けなげにも支援をつづけ、彼が試合に参加できるよう、魔法の力で馬と従者、鎧などを輸送するのであった<ref>Sturm, Sara. ''The "Bel Inconnu's" Enchantress and the Intent of Renaut de Beaujeu''. The French Review. 1971 </ref>。しかし、この行為を決別と恋愛の断絶のしるしと受け止めたガングランは意中の人との愛をあきらめ、王の勧めるエスメレとの結婚を受託する{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}。

==== 愛情のもつれ ====
二人の女性に愛された「名無しの美丈夫」だが、フランス版では上述したように、エスメレへの好意は薄く、「白い手の乙女」への愛が本気であった。結果的には失恋のエンディングである。読者層が、ハッピーエンドを期待したことは、作者も知っていたが、締めくくりの部分であえて挑発的にその事に触れている。すなわち、本作品は、「某女性」への愛が為に作詩した者であったが(冒頭文)、そのひとから「好意のまなざし({{lang|fr|bel sanblant}})」をついに受けられなかった作者は、ガングランにも失意の定めを与えたというのである(もし自分の愛がかなったなら、主人公の結末も好転したのだという)<ref>{{harvp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}, "favorable glance"</ref><ref>{{lang-fro|biau sanblant}}, "gracious countenance", {{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}, v. 5255</ref>。このような"いけずなエンディング naughty ending"<!--p. 123-->は、現代の評論家らを残念がらせ<!--disappointment, p. 120-->{{sfnp|Colby-Hall|1984|pp=120–123}}、なかには真剣な恋のテーマを悪ふざけした、憤る解説者もいるという{{Refn|{{harvp|Colby-Hall|1984|p=123}}: "tasteless playfulness in a serious romance", citing Boiron and Payen, "Structure et sens," 18.}}。

中英語の「リボー・デコニュ」の人物の方は、19世紀の解説者によれば、自分が蛇の姿から解呪した女性に一途であり、意中の女性は他にいないのと断じている{{sfnp|Schofield|1895|p=52}}。だが近年の事典によれば、トマス・チェスター作のこの作品では、主人公が黄金島の「愛の婦人」{{Refn|group="注"|name="dame_damour"}}と長く連日、武芸の功と恋愛関係の交友する「惰弱」(''recreantise''{{Refn|name="recreantise"|プライスが中英語の Libeaus desconus に関して''recreantise''を使用している(事典の"Chestre"の項)のが実例であるが<ref name="ArthEncy-chestre"/>、フランス語のアーサー王文学に充てるほうが妥当と思われる。バスビーは、少なくとも『名無しの美丈夫』が収まる《シャンティイ72番写本》全体を"manuscript of ''recreantise''"呼んでいるが、該当作品として列記しているのは『エレックとエニード』等で、『美丈夫』は抜けている<ref name="busby2022"/>。}})に興じていたではないか、としている<ref name="ArthEncy-chestre"/>。


== その他 ==
== その他 ==
ブロワ作品では、オノレ({{lang-fr|Honorée}})という剣を獲得する{{sfnp|渡邉|2019b|p=239}}。

近世では修道士クロード・プラタン(Fr. Claude Platin)による散文体の翻案『Hystoire de Giglan et de Geoffroy de Maience』(1530年)がり{{Refn|name="platin1530"|Claude Platin (1530) ''Hystoire de Giglan et de Geoffroy de Maience''{{sfnp|Hippeau ed.|1860|pp=ii–iv}}。{{harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992|p=xxv}}もテクストの編集にあたって欠損箇所などをこの散文版に照らして埋めている、とする。}}、プロヴァンス語の作品にある(円卓)騎士{{仮リンク|ジョフレ|en|Jaufre}}の物語と結合されている<ref name="ArthEncy-renaut"/>。

ガングランは[[トマス・マロリー|マロリー]]の『[[アーサー王の死]]』にも登場する。ただし、ル・ベル・アンコニュとしても冒険は収録されておらず、ほとんどさしたる活躍もない。端的に言えば、名前だけ登場すると言っても過言ではない。最終的に、叔父の[[モードレッド]]卿、[[アグラヴェイン]]卿とともに王妃[[グィネヴィア]]が[[ランスロット]]卿と不倫関係にあることを調査しようとしたところ、証拠をもみ消そうとしたランスロット卿により殺害されてしまった。なお、ランスロット卿が1人だったのに対し、ガングラン達は13人もいたのに、モードレッド卿を除く全員が十把一絡げに全員殺されてしまい、[[モブ]]以上の活躍はしていない。
ガングランは[[トマス・マロリー|マロリー]]の『[[アーサー王の死]]』にも登場する。ただし、ル・ベル・アンコニュとしても冒険は収録されておらず、ほとんどさしたる活躍もない。端的に言えば、名前だけ登場すると言っても過言ではない。最終的に、叔父の[[モードレッド]]卿、[[アグラヴェイン]]卿とともに王妃[[グィネヴィア]]が[[ランスロット]]卿と不倫関係にあることを調査しようとしたところ、証拠をもみ消そうとしたランスロット卿により殺害されてしまった。なお、ランスロット卿が1人だったのに対し、ガングラン達は13人もいたのに、モードレッド卿を除く全員が十把一絡げに全員殺されてしまい、[[モブ]]以上の活躍はしていない。

== 注釈 ==
{{notelist2}}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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{{reflist}}
{{reflist|2|refs=
<ref name="ArthEncy-carduino">{{cite encyclopedia|last=Hoffman|first=Donald L. |author-link=<!--Donald L. Hoffman--> |entry=Canari di Carduino, I |editor1-last=Lacy |editor1-first=Norris J. |editor1-link=:en:Norris J. Lacy |editor2-last=Ashe |editor2-first=Geoffrey |editor2-link=:en:Geoffrey Ashe |editor3-last=Ihle |editor3-first=Sandra Ness |editor3-link=<!--Sandra Ness Ihle --> |editor4-last=Kalinke |editor4-first=Marianne E. |editor4-link=<!--Marianne E. Kalinke--> |editor5-last=Thompson |editor5-first=Raymond H. |editor5-link=:en:Raymond H. Thompson |display-editors=1 |title=The Arthurian Encyclopedia |location=New York |publisher=Peter Bedrick |year=1996 |url= |page=81 |isbn=<!--1136606335, -->9781136606335 |quote=}}; New edition 2013, [https://books.google.com/books?id=hf6zAAAAQBAJ&q=carduino pp. 71–72]</ref>


<ref name="ArthEncy-chestre">{{cite encyclopedia|last1=Price |first1=Jocelyn |author1-link=<!--Jocelyn Price--> |author1-mask=Price, Jocelyn (on ''Libeaus''); Noble, James <!--James Noble--> (on ''Sir Launval'', etc.) |entry=Chestre, Thomas |editor1-last=Lacy |editor1-first=Norris J. |editor1-link=:en:Norris J. Lacy |editor2-last=Ashe |editor2-first=Geoffrey |editor2-link=:en:Geoffrey Ashe |editor3-last=Ihle |editor3-first=Sandra Ness |editor3-link=<!--Sandra Ness Ihle --> |editor4-last=Kalinke |editor4-first=Marianne E. |editor4-link=<!--Marianne E. Kalinke--> |editor5-last=Thompson |editor5-first=Raymond H. |editor5-link=:en:Raymond H. Thompson |display-editors=1 |title=The Arthurian Encyclopedia |location=New York |publisher=Peter Bedrick |year=1996 |url= |pages=100–102 |isbn=<!--1136606335, -->9781136606335 |quote=}}; New edition 2013, [https://books.google.com/books?id=hf6zAAAAQBAJ&q=chestre pp. 84–85]</ref>
== 参考文献 ==

<ref name="ArthEncy-renaut">{{cite encyclopedia|last=Busby |first=Keith |author-link=<!--Keith Busby--> |entry=Renaut de Beaujeu |editor1-last=Lacy |editor1-first=:en:Norris J. |editor1-link=Norris J. Lacy |editor2-last=Ashe |editor2-first=Geoffrey |editor2-link=:en:Geoffrey Ashe |editor3-last=Ihle |editor3-first=Sandra Ness |editor3-link=<!--Sandra Ness Ihle --> |editor4-last=Kalinke |editor4-first=Marianne E. |editor4-link=<!--Marianne E. Kalinke--> |editor5-last=Thompson |editor5-first=Raymond H. |editor5-link=:en:Raymond H. Thompson |title=The Arthurian Encyclopedia |location=New York |publisher=Peter Bedrick |year=1996 |url= |pages=448–449 |isbn=<!--1136606335, -->9781136606335 |quote=}}; New edition 2013, [https://books.google.com/books?id=hf6zAAAAQBAJ&q=beaujeu p. 380]</ref>

<ref name="brandsma2007">{{cite book|last=Brandsma|first=Frank |author-link=<!--Frank Brandsma--> |chapter=Chapter IX. Degrees of Perceptibility: the Narrator in the French Prose ''Lancelot'', and its German and Dutch Transations |editor1-last=Besamusca |editor1-first=Bart |editor1-link=<!--Bart Besamusca--> |editor2-last=Brandsma|editor2-first=Frank |editor2-link=<!--Frank Brandsma-->|editor3-last=Busby|editor3-first=Keith |editor3-link=<!--Keith Busby--> |display-editors=1 |title=Brandsma |volume=24 |location= |publisher=Boydell & Brewer |year=2007 |chapter-url=https://books.google.com/books?id=dSQEDMLcs8AC&pg=PA124 |page=124<!--121–134--> |isbn=<!--1843841169, -->9781843841166|quote=}}</ref>


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<ref name="MedFrEncy1995-gawain_romances">Busby, Keith (1995) "[https://books.google.com/books?id=XEQrDwAAQBAJ&pg=PA388 Gawain Romances'' in ''Medieval France: An Encyclopedia''</ref>

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<ref name="weston1897">{{cite book|last=Weston |first=Jessie Laidlay |author-link=:en:Jessie Laidlay Weston |title=The Legend of Sir Gawain: Studies Upon Its Original Scope and Significance |place=|publisher=David Nutt |year=1897 |url=https://books.google.com/books?id=XBIzAQAAMAAJ&pg=PA55 |pages=55–57|isbn=<!--0827428200, -->9780827428201}}</ref>

<ref name="wilson1943">{{cite journal|last=Wilson|first=Robert H. |author-link=<!--Robert H. Wilson--> |title=The "Fair Unknown" in Malory |journal=PMLA |volume=58 |number=1 |date=March 1943|url=<!--n/a--> |pages=1–21 |doi=10.2307/459031 |jstor=459031}}</ref>
}}

== 参照文献 ==
<!--この節には、記事本文の編集時に実際に参考にした書籍等のみを記載して下さい-->
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{{refbegin}}
{{節stub|date=2016年1月9日 (土) 13:38 (UTC)}}
;(原典)
;{{small|Bel Inconnu (BI)}}
* {{cite book|ref={{SfnRef|Hippeau ed.|1860}} |author=Renaut de Bâgé |author1-link=:en:Renaut de Beaujeu |editor-last=Hippeau |editor-first=C. |editor-link=:fr:Célestin Hippeau |title=Le bel inconnu ou Giglain, fils de Messire Gauvain et de la fée aux blanches mains |place=Paris |publisher=Augutste Aubry |date=1860|url=https://books.google.com/books?id=7Ks5AAAAcAAJ |page=}}
* {{cite book|ref={{SfnRef|Fresco ed. |Donager tr.|1992}} |author=Renaut de Bâgé |author1-link=:en:Renaut de Beaujeu |editor-last=Fresco |editor-first=Karen L. |editor-link=<!-- Karen L. Fresco--> |others=Translated by Colleen B. Donagher / Music edited by Margaret P. Hasselman |translator-link=<!-- Colleen B. Donagher--> |title='Le Bel Inconnu': ('Li Biaus Descouneüs'; 'The Fair Unknown') |publisher=Garland |date=1992 |url= |page=|isbn=0-8240-0698-4}}
** {{URL|1=https://books.google.com/books?id=6-JBEAAAQBAJ |2=Reprint}}, Routledge, 2021, {{isbn|1000164020}}<!--9781000164022-->

;{{small|Libeaus desconus (LD)}}
* {{cite book|ref={{SfnRef|Kaluza ed.|1890}} |author=Thomas Chestre |author1-link=:en:Thomas Chestre |editor-last=Kaluza |editor-first=Max |editor-link=:en:Max Kaluza |title=Libeaus Desconus: die mittelenglische Romanze vom Schönen unbekannten |place=Leipzig |publisher=O. R. Reisland |date=1890 |url=https://books.google.com/books?id=VkUW8_-pQBsC |page= }}<!--alt url https://books.google.com/books?id=NxULAQAAIAAJ -->
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* {{cite book|ref={{SfnRef|Weston tr.|2003}} |author=Renaut de Bâgé |author1-link=Renaud de Beaujeu |author-mask=Anon. and Renaud de Beaujeu |editor-last=|editor-first=|editor-link= |translator-last=Weston |translator-first=Jessie L. |translator-link=Jessie Laidlay Weston |others=Designs by Caroline M. Watts |title=Sir Cleges/Sir Libeas Desconus |publisher=David Nutt |date=1902 |url=https://books.google.com/books?id=yFk9AAAAYAAJ |page= |series=Arthurian Romances Unrepresented in Malory's "Morte D'Arthur 5}}
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;(研究・評論)
* {{cite journal|和書|ref={{SfnRef|中島|1967}}|author=中島邦男 |author-link=<!--中島邦男--> |title=マロリー研究序説―アーサー伝説の起源と発達 |trans-title= |journal=日本大学人文科学研究所研究紀要 |trans-journal=Studies in Humanities and Social Sciences |number=8 |location= |publisher=日本大学人文科学研究所<!--The Institute of Humanities and Social Sciences Nihon University--> |date=1966–1967 |url=https://books.google.com/books?id=NvwJAAAAIAAJ&q=無名騎士 |pages=245–274}}

* {{cite journal|和書|ref={{SfnRef|渡邉|2006a}}|author=渡邉浩司 |author-link=渡邉浩司 |title=『名無しの美丈夫』におけるゴーヴァン |trans-title= |journal=中央大学仏語仏文学研究 |trans-journal=Bulletin d'études françaises a l'Université Chuo |number=38 |location= |publisher=中央大学<!--Chuo University--> |date=2006a年3月 |url=<!--N/A--> |pages=77–91}}
* {{cite journal|和書|ref={{SfnRef|渡邉|2006b}}|author=渡邉浩司 |author-link=渡邉浩司 |title=『名無しの美丈夫』と『ヴィーガーロイス』-2つの世界- |trans-title=''Le Bel Inconnu'' et ''Wigalois'': deux univers différents |journal=人文研紀要 |trans-journal=The Journal of the Institute of Cultural Sciences<!--Jinbunken Kiyo--> |number=56 |location= |publisher=中央大学人文科学研究所<!--Chuo University--> |date=2006b年9月 |url=<!--N/A--> |pages=109–149}}
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* {{cite journal|last=Colby-Hall |first=Alice M. |author-link=<!--Alice M. Colby-Hall--> |title=Frustration and Fulfillment: The Double Ending of the Bel Inconnu |journal=Yale French Studies |number=67 |date=1984|url=<!--n/a--> |pages=120–134 |doi=10.2307/2929911 |jstor=2929911}}

* {{cite book|last=Schofield |first=William Henry |author-link=:en:William Henry Schofield |title=Studies on the Libeaus Desconus |place=Boston |publisher=Ginn and Company for Harvard University |year=1895 |url=https://books.google.com/books?id=gXc4AQAAIAAJ&pg=PA2 |page= |isbn=<!-- -->}}


== 関連書籍 ==
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* [[渡邉浩司]]「『名無しの美丈夫』におけるゴーヴァン」、中央大学『仏語仏文学研究』第38号(2006年)、pp.77-91.
* <!--[[渡邉浩司]]「『名無しの美丈夫』におけるゴーヴァン」、中央大学『仏語仏文学研究』第38号(2006年)、pp.77–91.-->
* [[渡邉浩司]]「『名無しの美丈夫』と『ヴィーガーロイス』-2つの世界-」、中央大学『人文研紀要』第56号(2006年)、pp.109-149.
* <!--[[渡邉浩司]]「『名無しの美丈夫』と『ヴィーガーロイス』-2つの世界-」、中央大学『人文研紀要』第56号(2006年)、pp.109–149.-->


== 外部リンク ==
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* [http://www.celtic-twilight.com/camelot/weston/libeaus_desconus/index.htm Jessie Weston's translation of ''Sir Libeaus Desconus'']
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* [http://ayutori.web.fc2.com/libeaus/desconus.index.html リベアウス・デスコヌスの和訳]
* 馬虎、[http://ayutori.web.fc2.com/libeaus/desconus.index.html リベアウス・デスコヌスの和訳]、馬虎書房


{{アーサー王物語}}
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2024年2月8日 (木) 19:39時点における版

ガングラン[1]古フランス語: Guinglain, Guinglan[2]Giglan[3]中英語: Gingalain[4]Gingelein[5]Sir Gyngalyn/Gingalin[6])はアーサー王伝説に登場する円卓の騎士。冒頭では主人公みずからその素性を知らず、つけられた綽名がそのまま『名無しの美丈夫[7]の作品名となっており、貴種流離譚の一種である。のちに自分の名とガウェイン卿とブランシュマルという妖精(フェー)の間にできた息子と明かされる。

代表する作品は、ルノー作『名無しの美丈夫』(現代フランス語: Le Bel Inconnu、12世紀末~13世紀初)は[注 1]、英訳題名『Fair Unknown』が充てられる[8]。中英詩版は『リボー・デコニュLibeaus Desconus)』[9][注 2]

『名無しの美丈夫』の梗概は、おおよそ次の通りである:自らの名も素性も名乗れぬ若者が、アーサー王の宮廷を訪れ、唐突に褒美を所望し、その騎士にくわわる。「名無しの美丈夫」の仮称を得るや、そのとき駆け込んできたウェールズの王女/女王[注 3]の侍女エリーが懇願する、主を救うための「恐ろしい接吻」(古フランス語: Fier Baissier)の冒険(いわばメインクエスト)を承諾し、王女救出に向かう[10]。が、エリーや小人を伴う道中で、いくつもの艱難(いわばサイドクエスト)が待ち受ける[11]。とくに黄金島では、「白い手の乙女」(フランス語: La Pucelle à Blanches Mains)に無理やり結婚をせまる相手「灰色のマルジエ」[12]を倒し、その「乙女」との結婚資格者になる[注 4]。しかし使命を思い出して置き去りのような形で島を去り、王都スノードンに行き、ウェールズ王女/女王ブロンド・エスメレが蛇竜〔ヴイーヴル[14](≈ワイバーン)に化身された魔法を接吻で解除して冒険を果たす。王女もまた主人公に嫁することを欲する。「白い手の乙女」との再会を果たすも、アーサー王は(美丈夫を王女と娶せて、配下の騎士として手元におきたい腹づもりで[15])、美丈夫を馬上槍試合に召喚する。最愛の乙女に送り出された美丈夫は、これを失恋と決別と受け止め、縁談のブロンド・エスメレ姫と結婚する[16]

中英語版でも主人公は、黄金島に立ち寄り、「愛の淑女」(またはアモール婦人)[仮訳名]を助けているので[注 5]、近年の解説のように恋愛交友があったとも推量できるが[17]、19世紀の解説では、中英語版の主人公は迷わず一途であり、人面の蛇竜[18][注 6]の姿から「接吻」で救った「スノードンの婦人」とすんなり結婚を決めた、としている[13]

同じくゴーヴァンの息子を題材とした後年の古フランス語詩『ボードゥー』(「穏やかな美丈夫」)の題名主人公はオノレ(フランス語: Honorée)という剣を帯びる[20]。中世イタリア語やドイツ語の類話も存在し、また近世フランス語の散文翻案もある。

登場作品

フランスでは、ルノー・ド・ボージューの『名無しの美丈夫』(Le Bel Inconnu、略称BI、12世紀末~13世紀初、6266行[22])であり[10][24]。原典の古フランス語読みではLi Biaus Descouneüsであるが、英訳題名(主人公名)"Fair Unknown"が充てられる[8][注 7]。この作品は、唯一、 シャンティイ城付設図書館/コンデ美術館蔵472番写本に伝存する[26][27]

英語版では、中英詩Libeaus Desconus[注 2](略称LD、14世紀、2232行[28])に翻案されている。さらには中世の類話作品にイタリア版『Carduino』(略称Car.)、ドイツ版『ヴィーガーロイス』英語版(略称Wir.)がある[29]。比較分析されている四作品(BI, LD, Car., Wig.)には(差異の部分も)があるが[30]、おおよそにおいて粗筋は一致する[31]

またロベール・ド・ブロワ英語版が『ボードゥー』(Beaudoux、「穏やかな美丈夫」13世紀後半)の題名で著した[32][33]もゴーヴァンの息子が主人公であるが、必ずしも『名無しの美丈夫』の類話扱いとはされず、先行作品と類似したエピソードがみとめられる作品という位置づけで解説されている[34]

古フランス語の『グリグロワ』(Gliglois、13世紀成立)[36]も、名前は似ているが、<名無しの美丈夫>伝説に充てる仮説は、その後においては懐疑的にかえりみられている[注 8][37]

サイクル分類

渡邉浩司は、ルノー作『名無しの美丈夫』を、聖杯探求を伴わない物語群として《ゴーヴァン・サイクル》に分類する[38]

ジェシー・L・ウェストン英語版(1897年)が用いた「名無しの美丈夫サイクル」(英語: Fair Unknown cycle)は、単に「名無しの美丈夫」の類話の仏・英・伊・独版を総じて指しているが[39]、それ以前にこれらを4作品を比較分析したW・H・スコフィールド英語版の研究があり、それらではパーシヴァル卿(ペルスヴァル)伝説よりの起源・分離説を提唱しているが[40][39]、これは演繹的・飛躍的ではないかともされる。

また、ペルスヴァルのみでなく、マロリーにおけるガウェインの弟ガレス卿(つまりガングランの叔父)の物語との類似性は何遍にもわたり指摘されている[42][44][45]

「ラ・コート・マル・タイユ」(寸法が合わないコート)[注 9]との類似性もみられる[41][45]

梗概と比較

『名無しの美丈夫』の梗概は、渡邉浩司が2006年論文で発表しているが[46][48]

中世の類話には中英語版『Libeaus desconus』(LD)、イタリア版『カルドゥイノ』(Car.)[50]、『ヴィーガーロイス』があり[29]、四言語の類話ロマンスにおいてあらすじはおおよそ共通しているが[31]、それらの比較分析にみられるように、差異の部分は少なからずあり[30]、いずれもどこか他の作品から借用可能なモチーフ展開を使って肉付けしている[31]

『名無しの美丈夫』(6266行)に比べ、中英語版(2232行)は、単純な行数比較で1/3程の長さである。19世紀の学者の数名は(W・H・スコフィールド等)、中英語版に近い簡素なフランス語祖本が存在し、ルノーはこれに多量の改変や脚色を加えたものだとする[51]。しかし近年の参考書には真逆な意見を述べており、これによれば中英語版はやはりルノーの作品の翻案であり[21]、あるいは複数の原本を素材に用いたのであろう、とも推察されている[17]

素性の秘密

『名無しの美丈夫』では、アーサーの宮廷(カイルレオン())に、出自も自分の名も知らぬ青年が訪れる。読者もそれを知らされない。この隠された素性というのは、中世文学によくみられる「謎」の技巧の一例である[53]。このフランス版の物語では、主人公の「ガングラン」という名前や出自は、『名無しの美丈夫』は作品の中盤まで言及されないが[2]、このじらしは、「接吻」冒険達成のドラマ効果を引きあげる狙いゆえ、とされる[39](参照: § 出自の啓示)。

ところが中英語版ではいきなり冒頭で、主人公の名(Gingelein)と、ガウェイン卿の息子であることが(読者には)暴露されてしまう[5]。これは「青少年期(youth, enfance )」の段などと称されているが、中英語版が祖本に近いと見解する学者かるすれば、ルノーが意図的に冒頭から削除した情報と解されている{Refn|スコフィールド Schoefield、ウェストン女史 Weston や、のちの Stromberg が、この"youth" ("enfance"[54]) が BIにおいて割愛"omitted" された、と記述する[55][39]。}}。母親は、(フランス版と同じく)容貌うるわしい我が子を"美しい息子"(Beaufis)と呼んでいたが、ガングランは森で少年の騎士に出会ってしまうと、自分も騎士になることを望みだす[43]

ちなみに主人公が向かうアーサーの宮廷の場所は、言語版により異なる。中英語版ではグラストンベリーであり [55]、イタリア版ではキャメロット、ドイツ版では Karidôl (カーライル)である[56]

騎士叙勲と冒険拝命

青年は、アーサー王にいきなり内容不明「褒美」を所望し、快諾される[57]。王は名を聞きに人を遣わすが、知らないと返答され、「名無しの美丈夫」というあだ名を授けられる[8]。まもなくガル(ウェールズ)から"姫君の侍女エリー"[58][59]が駆け込み、主(あるじ)たるウェールズ王女/女王[注 3]救助のための「恐ろしい接吻」の冒険を依頼する。他の騎士がしり込みするなか、「美丈夫」が約された「褒美」として救助使命の拝命を要求する。アーサー王は危ぶんで最初は渋るが、美丈夫を騎士に叙勲し、拝命を許す[60]。エリーは"最高ならず最低"の騎士を押し付けられた、と不満である[61]。中英語版でも、使者のエレイン[注 10]が、児童をよこしたと憤慨する[62]

道草道中

名無しの美丈夫は、不満たらたらなエリー、その連れの小人と、宮廷よりあてがわれた盾持ち(従士)のロベールを伴い[63][注 11]、旅路に出るが、実績のなかったこの騎士は、途中で数々の冒険、ないし敵との遭遇を経験する。

最初の対決は、《危険な渡瀬》(Gue Perilleus)を守るブリオブリーエリス(仮表記、Blioblïeris)だったが[64][63]、その者を降すと、今度はその仲間2名(3名)に挑まれた[65]

『名無しの美丈夫』では、助太刀する仲間が「サレブラントのウィリアム」(英語読み)であったが、中英語版『Libeaus desconus』では、「サレブランシュのウィリアム」(William of Salebraunche)という騎士が「危険の谷/橋」を見下ろす「冒険の城/礼拝堂」で待ち受けるのが初戦となる[66][67]

黄金島の白い手の乙女

道中での数ある副次的な冒険のうち、特筆すべきは黄金島の白い手の乙女[68]</ref>の救済である。この黄金島の女主人は、望まぬ相手である「灰色のマルジエ」との結婚が[12]、期限のせまるある条件下で成立する手はずになっていた。番人を務めあげ、7年間のあいだすべての挑戦者を退ければその者と嫁ぐ約束で、残りあと2年であった[69][70][71]。美丈夫は尋常な勝負でマルジエを撃ち滅ぼし、白い手の乙女の王国の所有と、彼女との婚姻の権利を手にした。形式の身でなく、このときは相思相愛の仲になっていた[72][73]

名無しの美丈夫は、この黄金島にいささか長居してしまう(武芸を忘れて女性にかまける行為は、文学評論ではrecreantise「惰弱」と呼ばれる[74])が、主冒険(メインクエスト)を思い出すや、礼儀をわきまえず唐突に(非騎士道的に)彼女の元を去り、ウェールズの姫の救助に向かう[73]

「白い手の乙女」は「白い手の淑女」(古フランス語: Demoiselles as Blances Mains)とも一か所では表記されるが[75]、魔法の使い手であるため解説者から「妖精〔フェー/フェアリー〕」とも呼ばれている[68][76][77]

メインクエストを終えたのち、白い手の乙女との再会し、突然辞去した非礼を詫びる機会が得られるが、その際に彼女は魔法を使って美丈夫の冒険や出自の知得を支援していたことを明かす[73]

英語版では黄金島の主は「愛の婦人」(仮訳名。中英語: Dame Amoure/dame d'amour)と称す[注 5][17]

蛇竜と交わす接吻

さてウェールズに到達した美丈夫は、その主冒険〔メインクエスト〕である「恐ろしい接吻」(古フランス語: Fier Baissier[78])を果たす。「恐ろしい接吻」の試練とはすなわち、悪玉の魔法使いによって蛇の姿に変えられたウェールズの姫を、元通りにするためにキスをしなければならないという、童話定番のモチーフであるが、正確を期すならばキスを与えるというよりも、近づいた蛇竜〔ヴイーヴル〕(≈ワイバーン[14](火焔を吐く怪物)からキスを受けたのである[18][39]。中英語版(やイタリア版の第2歌[79])でも、接吻による蛇女の解呪がおこなわれる。

『名無しの美丈夫』の主冒険の相手であるウェールズ姫は、人間に戻るとブロンド・エスメレを名乗り[80]、その名前が初めて明かされる。すでにグラングラス王の娘とは明かされていたが[81]、王女と言うより、じつはウェールズの女王(roïne)の位にあり、ここ王都スノードンに座する君主であると名乗る[82]

中英詩では、「スノードンの女王/貴婦人」(Queen of Sinadoune/Lady of Synadowne)[43] がこれに相当するQueen of Sinadoune (var. Lady of Synadowne),[83]。女性の顔をした有翼の蛇竜〔ワーム〕の姿に変えられていたが[84][18]、リボー・デコニュに接近して接吻した[85][43]。イタリア版『カルドゥイノ』第2歌でも、鎖につながれた蛇(イタリア語: serpe)との接吻で、ベアトリチェ(Beatrice)が解放される[79]

女王を蛇の姿に変えて捕らえていた悪玉魔法使いたちの名も、おおよそ合致している。フランス語版では兄がマボン(古フランス語: Mabons[86]で弟が「残酷な[騎士]エヴラン」(Evrains li Fier)である[87]。中英語版での、悪者の名前も同様である(Mabon, Irain) [88]

出自の啓示

上述で暗喩したように、「名無しの美丈夫」がその名を知るのはこの中盤で、主冒険「恐ろしい接吻」を果たした直後に、頭の中に声が流れ込み、ガングランと言う洗礼名や、父親がガウェイン卿、母親が妖精ブランシュマルであることを明かすref>古フランス語: Blancemal la Fee 'v. 3237), etc., cf. Le Bel Inconnu vv. 3205–3243, and after, Fresco ed. & Donager tr. (1992), pp. 190–193</ref>[39]。この箇所では主人公は「神よ」と問いかけているので[89] (神の啓示と思い込まされるが)、魔女でもある「白い手の乙女」は、のちに再会した時に、その声や啓示は自分がなす技だったと明かす.[90]

おおよそ似たような場面がドイツ版『ヴィーガーロイス』にみつかる、という指摘がある[91] 。そちらでは主人公が竜退治(魔法使いと無関係)したのち、気絶している間に身ぐるみ剝がされており、混乱して居場所がわからない精神状態だが、とりあえず自分の母親がシュリア女王フロリエ(Floriê)で父親がガーウェイン(Gâwein)と思い出すことができるシーンである。ただしこれは既に知っている情報を諳んじたにすぎず、出自の啓示が起きた訳ではない[92]

美丈夫の結婚

名無しの美丈夫に助けられたウェールズの姫も、自分との婚姻を願っている[15]。しかし美丈夫は既に「白い手の乙女」とも許嫁な関係であり、心情からすれば後者が本命の恋愛対象なので、葛藤が生じる[93]

そして美丈夫が「白い手の乙女」と再会を果たしている最中に、アーサー王は、彼を宮廷におびき寄せるため馬上槍試合(トーナメント)を開催することにし、さらに彼をウェールズの女王となったエスメレと結婚させようと考えた。「白い手の乙女」は、けなげにも支援をつづけ、彼が試合に参加できるよう、魔法の力で馬と従者、鎧などを輸送するのであった[94]。しかし、この行為を決別と恋愛の断絶のしるしと受け止めたガングランは意中の人との愛をあきらめ、王の勧めるエスメレとの結婚を受託する[73]

愛情のもつれ

二人の女性に愛された「名無しの美丈夫」だが、フランス版では上述したように、エスメレへの好意は薄く、「白い手の乙女」への愛が本気であった。結果的には失恋のエンディングである。読者層が、ハッピーエンドを期待したことは、作者も知っていたが、締めくくりの部分であえて挑発的にその事に触れている。すなわち、本作品は、「某女性」への愛が為に作詩した者であったが(冒頭文)、そのひとから「好意のまなざし(bel sanblant)」をついに受けられなかった作者は、ガングランにも失意の定めを与えたというのである(もし自分の愛がかなったなら、主人公の結末も好転したのだという)[95][96]。このような"いけずなエンディング naughty ending"は、現代の評論家らを残念がらせ[73]、なかには真剣な恋のテーマを悪ふざけした、憤る解説者もいるという[97]

中英語の「リボー・デコニュ」の人物の方は、19世紀の解説者によれば、自分が蛇の姿から解呪した女性に一途であり、意中の女性は他にいないのと断じている[98]。だが近年の事典によれば、トマス・チェスター作のこの作品では、主人公が黄金島の「愛の婦人」[注 5]と長く連日、武芸の功と恋愛関係の交友する「惰弱」(recreantise[74])に興じていたではないか、としている[17]

その他

ブロワ作品では、オノレ(フランス語: Honorée)という剣を獲得する[20]

近世では修道士クロード・プラタン(Fr. Claude Platin)による散文体の翻案『Hystoire de Giglan et de Geoffroy de Maience』(1530年)がり[3]、プロヴァンス語の作品にある(円卓)騎士ジョフレ英語版の物語と結合されている[21]

ガングランはマロリーの『アーサー王の死』にも登場する。ただし、ル・ベル・アンコニュとしても冒険は収録されておらず、ほとんどさしたる活躍もない。端的に言えば、名前だけ登場すると言っても過言ではない。最終的に、叔父のモードレッド卿、アグラヴェイン卿とともに王妃グィネヴィアランスロット卿と不倫関係にあることを調査しようとしたところ、証拠をもみ消そうとしたランスロット卿により殺害されてしまった。なお、ランスロット卿が1人だったのに対し、ガングラン達は13人もいたのに、モードレッド卿を除く全員が十把一絡げに全員殺されてしまい、モブ以上の活躍はしていない。

注釈

  1. ^ 「ル・ベル・アンコニュ」のような現代フランス語題名を音写したカナ音写で解説する学術書をみない。
  2. ^ a b 「リベアウス・デスコヌス」は、非専門家「馬虎」氏による試訳(現代訳から重訳)であって、当人いわく"登場人物の名称は正しい発音が分からなかったため、ほぼ全員がいい加減なものです"。邦文の学術文献で確認できたかぎりでは、中英語のまま引用している。
  3. ^ a b 冒頭では、そのとらわれの身の王族の女性は、名前を伏せグラングラス王の娘(177行目)とのみ紹介されるので、「王女」と思えるが、後のくだりで自ら「女王を主張する」者であると語る(3386行)。
  4. ^ 形式のみでなく心情的にも恋愛対象[13]。Colby-Hall論文、
  5. ^ a b c Kaluza (1890), p. 83 Libeaus desconus 1480行の本文では小文字のままの普通名詞"dame d'amour"を採用するが、脚注された異本には大文字(固有名詞)になっている読みもある: dame la d. damore C; la dame Amoure L; Madam de Armoroure P; Diamour Denamower A)。 近年の事典などでは固有名称"Dame Amoure"がみられる[17]
  6. ^ 中英語版では女性の顔をした有翼の蛇竜〔ワーム[19]
  7. ^ けっして新訳名ではなく、すでに注英語版『Libeaus Desconus』において、その名前が "Þe faire unknowe"の意味であると訳して説明されている[25]
  8. ^ ガストン・パリスも一時は<ル・ベル・アンコニュ>のサイクルを仮説したが、のち放棄した[37]
  9. ^ ブルーノ (アーサー王物語)参照。
  10. ^ 中英語 Elene の暫定カナ表記。エレイン (アーサー王物語)を借用。中英語ではないが、Elene は流布本系(ランスロ=聖杯サイクル)のテクストのバン王の妃(ランスロットの母)の名の異綴りとして確認できる。
  11. ^ 中英語版には、そのような従士の出番があからさまには見られないので、スコフィールドは編者オイゲン・ケルビンク英語版等も同調するとして、ルノーの改作(脚色)だと断じている。しかし編者カルーツァは反論として、中英語版が従士を切り捨てたものの、その役割を果たす人物が必要と気づいたとき、黄金島の「愛の淑女」に仕える家宰/家令ジフレット Gifflet が一行に加わった、と辻褄を合わせたとしている。反論はスコフィールドには納得いかないもので"justification"(正当性、根拠)に欠けるとしている(Schofield (1895), pp. 110–111)。

脚注

  1. ^ 渡邉 (2006a)(梗概), cf. 渡邉 (2019a), pp. 27–28
  2. ^ a b Guingla(i)n, Le Bel Inconnu v. 3233 et passim, cf. Fresco ed. & Donager tr. (1992) index, p. 409.
  3. ^ a b Claude Platin (1530) Hystoire de Giglan et de Geoffroy de Maience[100]Fresco ed. & Donager tr. (1992), p. xxvもテクストの編集にあたって欠損箇所などをこの散文版に照らして埋めている、とする。
  4. ^ Libeaus Desconus, Mills ed. (1969)の統一表記
  5. ^ a b Libeaus Desconus, vv. 7, 13 Mills ed. (1969), "Begete he was of Sir Gawain" v. 8; cf. Verzeichniss der Eigennamen, p. 226
  6. ^ Malory, Morte Darthur Book IX, Chap. xiii
  7. ^ 『名無しの美丈夫』の和訳題名は、渡邉の諸論文による。中島 (1967), p. 250では『美貌の無名騎士』と表記。
  8. ^ a b c Fresco ed. & Donager tr. (1992)編訳本の副題に"'Li Biaus Descouneüs'; 'The Fair Unknown'"。同 index "Biau Descouneü"参照、本文 v. 131他。
  9. ^ 中島 (1967), pp. 250, 253で『リボー・デコニュ』と表記。
  10. ^ a b c d e 渡邉 (2019a), 注12).
  11. ^ 原典(Bel Inconnu編訳本等)参照。
  12. ^ a b Malgier le Gris(古フランス語: Malgier[s] li Gris)。名前の登場は v. 2192、カナ表記は渡邉 (2019a), pp. 27–28参照。
  13. ^ a b Schofield (1895), p. 58.
  14. ^ a b v. 3128: "une wivre fors issir"
  15. ^ a b Colby-Hall (1984), p. 121.
  16. ^ Colby-Hall (1984), pp. 121–122.
  17. ^ a b c d e f Price, Jocelyn (on Libeaus); Noble, James (on Sir Launval, etc.) (1996). "Chestre, Thomas". In Lacy, Norris J. [in 英語]; et al. (eds.). The Arthurian Encyclopedia. New York: Peter Bedrick. pp. 100–102. ISBN 9781136606335; New edition 2013, pp. 84–85
  18. ^ a b c Schofield (1895), p. 203.
  19. ^ Kaluza ed. (1890), pp. 117–118.
  20. ^ a b 渡邉 (2019b), p. 239.
  21. ^ a b c d Busby, Keith (1996). "Renaut de Beaujeu". In Lacy, :en:Norris J.; Ashe, Geoffrey [in 英語]; Ihle, Sandra Ness; Kalinke, Marianne E.; Thompson, Raymond H. [in 英語] (eds.). The Arthurian Encyclopedia. New York: Peter Bedrick. pp. 448–449. ISBN 9781136606335; New edition 2013, p. 380
  22. ^ 事典によれば全6266行とあるが[21]Fresco ed. & Donager tr. (1992)の編訳本、G. Perrie Williams の 1929年編本. Hippeau ed. (1860) ends with 6122 lines.
  23. ^ Fresco ed. & Donager tr. (1992), p. xi
  24. ^ 1191年より後~1212/13年の間に成立[23]
  25. ^ Libeaus Disconus, v. 83, Kaluza ed. (1890), note, p. 132: "eine wörtliche übersetzung des frz. namens".
  26. ^ Perret ed. (2003), p. viii.
  27. ^ Renaut de Beaujeu - Arlima - Archives de littérature du Moyen Âge”. arlima.net. 2024年2月1日閲覧。
  28. ^ Schofield (1895), p. 1.
  29. ^ a b 『ヴィーガーロイス』のカナ表記は渡邉 (2019b)による。
  30. ^ a b Cf. Schofield (1895), pp. 2ff において四作品の比較分析
  31. ^ a b c Busby:"The basic plot (also present in the It. Carduino MHG Wigalois.. ", etc. "enhanced by motifs found elsewhere to be found elsewhere: sparrowhawk contest.."[21]
  32. ^ 渡邉 (2019a), p. 239.
  33. ^ Busby, Keith (1995) "[https://books.google.com/books?id=XEQrDwAAQBAJ&pg=PA388 Gawain Romances in Medieval France: An Encyclopedia
  34. ^ 渡邉渡邉 (2019a), pp. 27–28[10]
  35. ^ Livingston, Charles H. ed. (1932). Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century. Cambridge: Harvard University Press.
  36. ^ リビングストン編本(1932)[35]。写本は1904年焼失したが原稿や書写等より翻刻。
  37. ^ a b Review author: Nitze, W. A. (February 1933). “Gliglois. A French Arthurian Romance of the Thirteenth Century”. Modern Philology 30 (3): 323–325. JSTOR 434453. 
  38. ^ 渡邉 (2006a).
  39. ^ a b c d e f Weston, Jessie Laidlay (1897). The Legend of Sir Gawain: Studies Upon Its Original Scope and Significance. David Nutt. pp. 55–57. ISBN 9780827428201. https://books.google.com/books?id=XBIzAQAAMAAJ&pg=PA55 
  40. ^ Schofield (1895), pp. 146–147, 153.
  41. ^ a b Wilson, Robert H. (March 1943). “The "Fair Unknown" in Malory”. PMLA 58 (1): 1–21. doi:10.2307/459031. JSTOR 459031. 
  42. ^ Wilson ではゾンマー(Oskar Sommer)やウェストン、ヴィナヴェール(Eugène Vinaver)などの意見を簡略にまとめる[41]
  43. ^ a b c d Broadus, Edmund Kemper (November 1903). “The Red Cross Knight and Lybeaus Desconus”. Modern Language Notes 18 (7): 202–204. https://books.google.com/books?id=tyZHAQAAMAAJ&pg=PA202. 
  44. ^ Broadus (1903) の論文もまた、スペンサー『妖精の女王』の赤十字の騎士は、ガレスより美丈夫に似る、と指摘する[43]
  45. ^ a b 中島 (1967), p. 250ではマロリーの「ガレス物語」と"「リボー・デコニュ」やフランスの『美貌の無名騎士』,更に.. 『散文トリスタン』の中の『ぼろ衣の騎士』( La Cotte Mal Tailée )に相似"を指摘。
  46. ^ 渡邉 (2006a)、「『名無しの美丈夫』におけるゴーヴァン」。
  47. ^ 渡邉 (2019)、《伝記物語》の変容(その3 )―ロベール・ド・ブロワ作『ボードゥー』をめぐって―、pp. 27–28等
  48. ^ 別稿でもブロワ作『ボードゥー』と『名無しの美丈夫』には共通エピソードがあるとして、簡略に後者のあらすじ内容を説明する。[47]
  49. ^ 井村君江『妖精学大全』(「カルドゥイノ 」の項)。アッハ・イシュカ (Each Uisge)”. 妖精学データベース. うつのみや妖精ミュージアム (2008年). 2020年10月4日閲覧。による。
  50. ^ カナ表記は、イタリア文学者ではないが、井村君江の事典(のデータベース)で確認[49]
  51. ^ "Changes introduced by Renaud"の章、pp. 106–145
  52. ^ Gray, Douglas (2015). Simple Forms: Essays on Medieval English Popular Literature. OUP Oxford. p. 191. ISBN 9780191016295. https://books.google.com/books?id=rTODBgAAQBAJ&pg=PA191 
  53. ^ 他にも緑の騎士英語版など、アーサー王伝説系の文学のなかに「謎」の例が挙がる[52]マリー・ド・フランスの『とねりこ英語版』の例は、アーサー王題材ではないがブルターニュものには数えられる。また、「女性が求める最たるものはなにか」の謎は、『ガウェイン卿とラグネル姫の結婚英語版』に登場する(参照:『Arthur and Gorlagon』とクラウ・ソラスの民話の「女性にまつわる唯一の物語」モチーフ。
  54. ^ Stromberg, Edward H. (1918). A Study of the Waste Or Enchanted Land in Arthurian Romance. Northwestern University. p. 21, n2. ISBN 9780191016295. https://books.google.com/books?id=jRAxAQAAMAAJ&pg=PA21 
  55. ^ a b Schofield (1895), p. 2.
  56. ^ Schofield (1895), p. 138.
  57. ^ Le Bel Inconnu vv. 82–89
  58. ^ 渡邉 (2019a), 注12)の表記。
  59. ^ {harvp|Fresco ed. |Donager tr.|1992}}, Helie (v. 197)
  60. ^ Le Bel Inconnu vv. 184–227
  61. ^ Le Bel Inconnu vv. 228–232
  62. ^ Schofield (1895), p. 10.
  63. ^ a b c Brandsma, Frank (2007). “Chapter IX. Degrees of Perceptibility: the Narrator in the French Prose Lancelot, and its German and Dutch Transations”. In Besamusca, Bart; Brandsma, Frank; Busby, Keith. Brandsma. 24. Boydell & Brewer. p. 124. ISBN 9781843841166. https://books.google.com/books?id=dSQEDMLcs8AC&pg=PA124 
  64. ^ Bel Inconnu vv. 321–339、Blioblïerisの名は v. 339
  65. ^ Bel Inconnu, vv. 527–531。ブランズマは"two cronies"とするが[63]、Fresco の index に照らすと 3人であり、グレ領主エラン・ル・ブラン(仮表記、Elins li Brans, sire[s] de Graie[s]、v. 527)、セの騎士(li chevalier[s] de Saie[s]、v. 528)は別個の人間、これにウィョーム・ド・サルブラン(仮表記、Willaume de Salebrant、v. 529)が加わる。
  66. ^ Weston tr. (1902), p. 27: "Castle Adventurous.. upon the Vale Perilous"
  67. ^ Libeaus Desconus, Kaluza ed. (1890), pp. 19ff: 中英語: chapell auntrous (var. castell au[ntrous] C., etc., v. 302) and "Upon þe point perilous" (var. pont I; bridge of perill P., vale C., v. 306).
  68. ^ a b Bel Inconnu、初出は v. 1941。"Blances Mains, la Pucele as"(古フランス語の表記)、Fresco ed. & Donager tr. (1992) index, p. 406において"fairy mistress of Guniglain, lady of Ille d'Orとある。
  69. ^ vv. 2021–2033
  70. ^ Colby-Hall (1984), p. 121: "The most important of these is the defeat of Malgier le Gris,..", etc.
  71. ^ 渡邉 (2019a), pp. 27–28.
  72. ^ vv. 2204ff
  73. ^ a b c d e Colby-Hall (1984), pp. 120–123.
  74. ^ a b プライスが中英語の Libeaus desconus に関してrecreantiseを使用している(事典の"Chestre"の項)のが実例であるが[17]、フランス語のアーサー王文学に充てるほうが妥当と思われる。バスビーは、少なくとも『名無しの美丈夫』が収まる《シャンティイ72番写本》全体を"manuscript of recreantise"呼んでいるが、該当作品として列記しているのは『エレックとエニード』等で、『美丈夫』は抜けている[99]
  75. ^ v. 319.
  76. ^ Colby-Hall (1984), p. 121: "the use of magic has transformed her into a veritable fay"
  77. ^ イポー編本(Hippeau ed. (1860), p. 114、3211行目)で"Fius es à Blances mains la fée(白い手〔ブランシュマン〕の妖精の息子)"とあるが明らかな誤記・誤植で、この箇所では母親名であるブランシュマルが入る(Fresco ed. & Donager tr. (1992), v. 3237)。スコフィールド白い手の乙女の事を"Fairy of the Ile d'Or(黄金島の妖精)"と呼んでいるが(Schofield & 1895 (212))、イッポ―編本の誤記は認識しており、その箇所はWendelin Foersterに拠る写本読みに置き換えている(Schofield (1895), p. 52 and n1)。
  78. ^ Le Bel Inconnu vv. 192, 3206, 4997, cf. Fresco ed. & Donager tr. (1992) index, "Fier Baissier" p. 408.
  79. ^ a b Hoffman, Donald L. (1996). "Canari di Carduino, I". In Lacy, Norris J. [in 英語]; et al. (eds.). The Arthurian Encyclopedia. New York: Peter Bedrick. p. 81. ISBN 9781136606335; New edition 2013, pp. 71–72
  80. ^ カナ表記は渡邉による[10]
  81. ^ 冒頭/初出では"Gringras" (v. 177)という綴りだが、英訳では以降文のすべてで用いられる"Guingras"の綴りに統一している。逆に渡邉のカナ表記は初出のグラングラスである[10]
  82. ^ "acknowledge queen"; "Snowdon" Senaudon); vv. 3385–8
  83. ^ Libeaus Disconus, v. 1512, Kaluza ed. (1890), p. 84, "Of Sinadoune þe quene"; footnote, variants: S.]..doune I, Lady of Synadowne A'P.
  84. ^ Libeaus Disconus, vv. 2095–2096: "A worm..wiþ a womannes face", Kaluza ed. (1890), pp. 117–118
  85. ^ "And after þat kissinge /the wormis taile and winge/Swiftly fell her fro", vv. 2113–2115</ref>
  86. ^ Le Bel Inconnu vv. 3347 およびこれ以前の文。
  87. ^ Le Bel Inconnu vv. 3368.
  88. ^ Schofield (1895), pp. 124–126.
  89. ^ v. 3205
  90. ^ Schofield (1895), p. 212引きHippeau ed. (1860), vv. 4903–4910,p. 174。旧編本とは行番が異なるが、新編本ではLe Bel Inconnu vv. 4995–5002, in Fresco ed. & Donager tr. (1992), pp. 298–299に相当する: "the voice you heard,/and which told you your name.. was none other than my own"。またColby-Hall (1984), p. 121: "he learns that it was her voice that proclaimed his identity", etc.も参照
  91. ^ 指摘は Albert Mebes に拠るもので、ドイツ文を Schonfieldが引用している。
  92. ^ Schofield (1895), p. 213.
  93. ^ Colby-Hall (1984), p. 121: "Guinglain is faced with the dilemma of choosing between two offers of marriage"
  94. ^ Sturm, Sara. The "Bel Inconnu's" Enchantress and the Intent of Renaut de Beaujeu. The French Review. 1971
  95. ^ Colby-Hall (1984), pp. 120–123, "favorable glance"
  96. ^ 古フランス語: biau sanblant, "gracious countenance", Fresco ed. & Donager tr. (1992), v. 5255
  97. ^ Colby-Hall (1984), p. 123: "tasteless playfulness in a serious romance", citing Boiron and Payen, "Structure et sens," 18.
  98. ^ Schofield (1895), p. 52.
  99. ^ Busby, Keith (2022). Codex and Context: Reading Old French Verse Narrative in Manuscript. I. BRILL. p. 410. ISBN 9789004488250. https://books.google.com/books?id=e4x6EAAAQBAJ&pg=PA410 
  100. ^ Hippeau ed. (1860), pp. ii–iv.

参照文献

(原典)
Bel Inconnu (BI)
Libeaus desconus (LD)
(研究・評論)
  • Colby-Hall, Alice M. (1984). “Frustration and Fulfillment: The Double Ending of the Bel Inconnu”. Yale French Studies (67): 120–134. doi:10.2307/2929911. JSTOR 2929911. 

関連書籍

外部リンク